バルセロナ 2-0 レアル・マドリー
監督 ジョゼップ・グアルディオラ
フォーメーション 1-4-3-3
「注目のクラシコは2-0でバルサの勝利」
「大方の予想通りかね」
「そうかもしれんが、マドリーは予想以上の出来だった」
「後半の後半まで同点やったしな」
「そこで今回はなぜマドリーがバルサに対抗できたか、その理由に加えて個人技術と戦術の関係、バルサとマドリーの今後といったテーマで話を進めてみたいと思うわけや」
「よかろう」
「まず先発はこう」
「予想通りではあるな」
「マドリーの守備は下のようになっていた」
「マンツーに近い形でマークする箇所が多くある」
「ラモスがメシ、ドレンテがアウベス、ラウールがマルケス、イグアインがトゥレやな」
「右はサルガドがアンリで、シュナイダーがそれをヘルプに行く」
「ラモスが左なのはメシにスピードで負けないためで、ドレンテがアウベスを見るのも同じ理由やな」
「ベティス戦で見た、バルセロナ相手にはこうならなければならないという図とほぼ同じになっている」
「この形のバルサを止めようと思うと、これが一番効率がいい」
「こう組まなかったのがバレンシアで、綺麗に負けたのは記憶に新しい」
「攻撃では下の流れを狙う」
「ヌマンシアやスポルティング・ヒホンやな」
「マドリーのプレーにはこれまでのバルサ対策がきちんと盛り込まれており、それでいい勝負になった」
「つまりこれまでの対策は、引き続き有効であるということやな」
「そうなる」
「ただベティスで見た4トップ気味にして放り込むというのは、今一つなかったのではないかね」
「それは、ファン・ニステルローイがいないのが一つの原因やな」
「そうかね」
「ちなみにマドリーの前線の守備は、前半の途中から少し変わった」
「これが最初やな」
「プジョルは完全に放置する」
「どうせ下手やから好きにさせていい、という作戦やな」
「ところがそれに怒ったプジョルが下の形で敵陣まで入り、前線にパスを当てようとしていた」
「さすがにこれはいかん」
「ということで、途中からイグアインが応対に出るようになった」
「応対に出るといってもプレスをかけるわけではなく、トゥレへのパスを絶対に出させないようにしながら横から追い込んでいく」
「それと連動してラウールは、いつでもトゥレを押さえに行けるように位置を下げる」
「これをやられるとプジョルは非常に困る」
「いわゆるワンサイドカットで右へのパスを切られたまま、徐々に前へ追い込まれてしまう」
「そして潰されるか、パスカットからカウンターを喰らうと」
「まあそうなるとマドリーの筋書き通りになってしまう」
「困ったことやな」
「そこでどうするかという話や」
「どうすんねん」
「それを考えられてから以下を読まれると、より面白いのではないかと思われますので」
「ご一考いただければと」
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「さて」
「まず下の形からアビダルに返すというのは」
「あかんやろ」
「組み立ての下手さに関しては、アビダルも負けてへんからな」
「何の解決にもならない」
「なら組み立ての上手いマルケスにパス出したいところだが」
「それもラウールに詰められて思う壺やな」
「かといって、前にドリブルをすれば相手に捕まる」
「結局、どうやってもあかん」
「という話になりそうだが」
「一つ冴えたやり方がある」
「赤い方向に進まずに、対応に出てきたイグアインに突っ込んで行けばよい」
「突っ込むというか、イグアインに向かってドリブルをするわけやな」
「相手が”さあ来なさい”と空けているスペースに入るから罠にはまるわけで、お誘いをお断りすればよい」
「そういう話なのかね」
「そりゃ勝負事の基本で、相手が取って下さいと誘う石は取ったら駄目だし、取って下さいと差し出された駒を取ると大体負ける」
「正面から向かえば、イグアインはそこから動けなくなる」
「そこでトゥレが開けばパスが通る」
「正しいインサイドで裏とした蹴り方をすれば、このプレーは簡単にできる」
「めでたしめでたしと」
「しかし今度はそれを警戒して、ラウールが下がってくるかもしれない」
「その時はトゥレに出す振りをして、マルケスに戻せばいい」
「表から裏というやつやな」
「これならラウールとマルケスの間に距離があるのでパスは通りやすく受けた後、上手いマルケスが自由に組み立てることができる」
「これもめでたしめでたしと」
「しかし今度はガゴが前に出てきたらどうする」
「その時は、その裏に出せばいい」
「インフロントで軽く浮かせて通るな」
「これもめでたしめでたしと」
「ところでここで裏をかいて、イグアインがトゥレのマークへ戻ったらどうする」
「これはほとんどありえへんやろ」
「まあ、一応な」
「そこを空けてくれるなら前のようにドリブルで縦に進んでもいいし、一番良い場所が空くんだから前でもその横でも普通にパスを出せばいい」
「これもめでたしめでたしか」
「イグアインが出てこないなら最初にプジョルをフリーにしたのと同じ状況だし、今度はより中央にいる分、パスの選択肢は広い」
「相手から逃げるから苦しくなるわけで、それを回避したいなら相手に向かえばよいということかね」
「それだけの話なのだが、完全に誤った蹴り方であるパター型のインサイドを身につけてしまうとそれができなくなる」
「体の正面にパスを出すのが基本やから、相手に向かうと出すところがなくなる」
「こういった話は、これまでも散々出てきたところやな」
「その辺りの話に興味をお持ちの方はこちらをご覧下さい」
「ところでや」
「なんや」
「ここまでの話だと相手を向かないから苦しくなる、相手を向かないのはパター型を身につけているからだ、ということになる」
「そうやな」
「ところが、プジョルがパター型を身につけてプレーして来たという保障はない」
「ほぼ自明のように思うが」
「それでは済まないので、以下にプジョルの蹴り方を見てみようかと思う」
「プジョルの蹴り方は相当斬新やで」
「画像は2005-2006シーズン、バルセロナがチャンピオンズを勝った時の決勝、アーセナル戦のものを使用する」
「えらく古いな」
「この場合、プジョルはパター型を基本に過ごしてきたということが言えればいいから、その点は問題ない」
「そうかね」
「まずは下の状態で、センターサークル方向に15mほどのパスを出す」
「見事にパター型やな」
「その一つの証拠が、インパクトの時のこの歪んだ姿勢やな」
「間違った蹴り方で見た、メルテザッカーと瓜二つやな」
「それを後ろから見た図やな」
「ドフリーな状況からドフリーな選手に15mのパスを送るだけなのに、こんな無茶な体勢を取る理由がわからない」
「それはパターのように蹴りなさいとプジョルに教えた指導者の責任であって、選手が悪いわけではない」
「次に左足で蹴る場合を見る」
「完全にフリーの状態でバックパスを出す」
「いったいプジョルの身に何が起こったのか」
「こっちが心配になる」
「心配になると言えば下の流れやな」
「フリーのプジョルが中央に引いてくる選手のために、スペースにパスを出す」
「ここまでで十分変な体勢だが」
「ここからジャンプする」
「このジャンプが恐いねんな」
「キックの終わりにプジョルがなぜ飛ぶかといえば、体の歪みを矯正するためである」
「上のように90度横にした足をボールに平行にぶつけるため、体に非常な無理をさせている」
「そこで生じた歪みを自然な形では解消できないため、ジャンプしてニュートラルな体勢に戻す」
「選手が飛び上がるというのは、この他にもう一つ理由がある」
「肉離れを起こした時やな」
「筋肉を損傷した選手はビクっと上に飛び上がる」
「プジョルのジャンプはそれと似てるから心配になるわけやな」
「まあ、何でもないねんけどな」
「以上のことから、プジョルはパターのように蹴る、間違ったインサイドを習得していることがわかる」
「ところで何でこんな話になったんやっけ?」
「それを今から言うねん」
「そうか」
「相手にフリーにされ下の形で追い込まれる、というのはプジョルが下手であるからであるということになる」
「ふむ」
「下手であるということはこの場合、パター型のインサイドを身につけているということでもある」
「相手に向かう、という解法を用いることができない点ではそうやな」
「そのことがマドリーに下のように守ることを可能にさせている」
「下手を空ける守り方か」
「マドリーはこれで善戦したわけだから、プジョルに間違いを教えた罪深いコーチがこの試合の陰の主役だったと言える」
「見事に風が吹いたら桶屋が儲かったな」
「ちなみにこの方式の守り方というのは、ユーロ2008でトルコがドイツに仕掛けたのと同じ理屈に基づいている」
「今回は左のプジョル、アビダルが下手で、ユーロでは右のメルテザッカー、フリードリッヒが下手やったわけやな」
「この2つで穴として狙われたプジョルとメルテザッカーは、ほぼ同じ蹴り方を身につけている」
「素晴らしき偶然やな」
「これを偶然で片付けるとは、君も幸せ一杯やな」
「症例が少ないからな」
「それにしても、偶然で済ませずに疑いくらいは抱くべきちゃうかね」
「そうなんですかね先生」
「そらそうやで」
「まあ話も長くなったし、そろそろまとめに行こうか」
「まずパター型のインサイドは、教えることも習得することも害にしかならないというのが一つ」
「それはこれまで通りやな」
「次にバルサに対しては、きちんと対策を施せば別に恐くないというのが一つ」
「しかしマドリーは負けたぞ」
「それはドレンテがフリーになっても駄目だっただけで、方法論としては上のやり方で理屈通りに決定的な形を作ることができる」
「ドレンテの能力が足りないだけと言いたいのか」
「あれがソラーリだったらと思わずにはいられない」
「懐かしい名前な」
「サイド、特に左サイドが強くてフォワードにロングボールを受ける選手がいるチームが来れば、バルサを攻め崩せるのではないかという話があったが、確実に崩せるというのがこの試合でわかった」
「それならイングランドやイタリアの強いチームとの対戦が楽しみやな」
「なんでや」
「その特徴なら上の二国が有望やろ」
「チャンピオンズが非常に興味深いと」
「後、ソラーリで思うのはフアンデで大丈夫かという点やな」
「それまたどうしてや」
「彼はセビージャでサイドを強調して、パターンで攻め崩すサッカー(※リンク切れ)で成功したやろ」
「そうやな」
「マドリーというのは、そういったサッカーに最も向いてないチームで、例えばこの試合の途中で下の形になった」
「右にパランカやな」
「ソラーリやビクトルといった選手はおらず、中盤のサイドに人材を欠く」
「だから3トップ系のシステムに落ち着くんやけどな」
「フアンデは1-4-4系のシステムを好むから、はたしてどうなるのか、というか上手くいく要素が思いつかない」
「つまりフアンデはこけるということか」
「知る限りにおいて、そうとしか言いようがない」
「冬に大量補強すればええやろ」
「それしかないかね」
「そんな予想が当たるか否か」
「そんな点もご注目いただいて」
「今回はこの辺で」
「また次回」
「ご機嫌よう」