正対から見えること トリック主義の嘘


前回は最初にスラローム系の技を覚えることが子供の将来にとって、いかに危険であるかを見た。

同時に技術上達には正対という原理が最も重要であることを見た。
今回は技術指導法、指導理論にとっても正対という原理が重要であることを見る。

現在の指導法にトリック主義と呼ぶべきものがある。

まず様々なトリックを選手になるべく数多く教え込む。
教え込むことで技術的な「引き出し」を多く持たせる。
実際の試合でどの技術を選択するかは、試行錯誤と選手個々の判断を尊重する。

このような考えのものである。

正対という芯を入れないのであれば、このような指導法は根本的に間違っている。

多くの技を教える場合、その大半がスラローム系のものになる。

正対では状況が簡単でありまた、その利点を最大限にいかすためには時間を無駄にしない技が必要になる。
このため使う技術もシンプルなものになる。
シンプルな技の数には限りがある。

一方、スラロームは正対に比べ移動可能な方向が多い。
このため組み合わせにより、多くの複雑な技を作ることができる。

以上のことは技の数を増やせば増やすほど正対の割合が減り、スラロームの割合が増すことを示している。
つまり下の状態になる。

この状態で選手に「判断」をさせることは極めて危険である。

技術レベルの低い選手はスラロームを行いやすい。

正対ではボールをさらして相手と向かい合うため、ボールを奪われやすい。
一方スラロームは相手に体の横を向けているため、いざとなれば体でボールを守りやすい。
この安心感があるため、初心者ほどスラロームを行う。

そこにスラロームで使える技を多く教える。
当然、選手の「判断」はそれを使う方向に傾く。

一度スラロームを始めればスラローム癖がつく。
これは前回見た通りである。

スラローム癖がつけば、それをつなぐようになる。

結局、下手な選手が出来上がる。
教え込まれたスラローム系のトリックが初心者のスラローム癖を助長し、道を見失わせる。
正対という山の頂を目指すにおいて、中腹のスラロームの森で迷子になってしまう。

そのような技術的迷子を作る指導法は数多く存在し、それらは全く無意味である。

これを避けるためには、正対という芯を入れることである。

スラロームをしながらも正対を常に意識する。
正対からスラロームに戻った後も正対を常に意識する。

これにより初めて上達への道が開かれる。
これが実現されて初めて、スラローム系のトリックも本当に意味を持つ。

正対という原理を持ち込まぬ限り、トリック主義のトレーニング理論は無意味である。

これに対し「技は教えるが、正対といういう原理は選手自身に気づかせることに意義がある。それをあらわに教えては意味がない」という反論がなされるかもしれない。

もしそうならば、良い仲間とストリートサッカーに明け暮れた方がましである。
わざわざ道に迷うトリックを教えてくれるコーチがいない分、正対に気づく時期が早まる。
目くらましがある状況で本質に気づく選手なら、それがなければより早く気づく。

そして正対を発見した後は、ひたすらそれを磨いていられる。
「正式な」トレーニングを受けている選手が、不毛なトリックを覚えている時間を正対を磨くことに費やすことができる。
スラロームによる嘘の成功体験をしている間に、正対による成功体験を積むことができる。

同じ選手が2年もこれを続ければ、膨大な差になる。
選手を迷子にさせる論理的指導より、ストリートサッカーの方が指導理論として優れているとさえいえる。

選手を潰すのは簡単である。

移動方法としてスラロームを教え、インサイドキックとしてパター型を教える。
これで選手の技術的な可能性はほとんど潰れる。
スラロームを教えれば攻撃ゾーンで相手に向かうことができない選手が出来上がり、パター型を教えればプレッシャーがかかると簡単に横を向き、味方に困難を押し付ける選手が出来上がる。

選手にあっては、このような指導を無視することが肝心であり、保護者にあっては、このような指導から子供を守ることが肝心である。

そのためには正対という原理一つを知っていればよい。
そこから見ればスラローム癖を強めることは嘘であり、正面にしか蹴れないパター型が嘘であることはすぐにわかる。

これはトップレベルの選手の技を模倣する際にも同じことが言える。

クライフで見たように彼の正対からのプレーを真似るならよいが、クライフターンという一つの技を真似てスラローム癖を強めたのではどうにもならない。

子供は有名な選手の真似をしたがる。
模倣は確かに上達への近道である。
しかし無軌道な模倣は将来を損ねる可能性が高い。

現在この点で最も注目すべきは、クリスティアーノ・ロナウドである。

次回はこれを見る。


【蹴球計画】より ※この内容は蹴球計画のミラーサイトとして作成しています。詳細についてはこちら

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