インステップキックの指導について
これまで、インステップキックの練習法について見た。
ここでは指導について考える。
インステップの種類
これまで見てきたように、インステップキックには大別して楔型と弓型の2種類ある。
これらをインステップの代表とするのは、以下の理由による。
まずこの2つは物理的に強いキックを蹴るメカニズムの両極端に属する。一方は力のピーク値を上げ、もう一方は力を持続的に発揮する。
次にこの2つの型は一般に良く観測される。また後に見るように様々なインステップのバリエーションは、これらからの派生、もしくは複合として理解されうる。
技術の土台として習得するのに好適であると考えられる。
楔型と弓型の分離
楔型と弓型はその蹴り方、メカニズムにおいて完全に異なる。
しかしながら、これまで同じインステップキックとして一括りにされてきた。
このため現場、技術書、技術研究すべての段階において混乱が見られる。
スペインではインステップを練習する際、”クエルポ・エンシーマ”という声をよく耳にする。クエルポは体であり、エンシーマとは上という意味である。
つまり上体をボールの上にかぶせろということである。
これは楔型において適切な指導である。
左は楔型のインステップである。
選手から見て体をボールにかぶせる形になっている。
右は弓型のインステップである。
どの角度から見ても体をボールにかぶせる形にはならない。下の図においてもそれは明らかである。
楔型においては、インパクトにおいて確かに上体をボールの上に置く形になる。
例えば斜めから助走し、手を開いて胸をそらせて踏み込めと指導するならば弓型を教えていることになる。
しかし選手がボールを浮かせると”クエルポ・エンシーマ”という声が飛ぶ。
これは矛盾である。
このように2つの型をミックスした指導は、いたずらに選手を混乱させ成長を阻害する可能性が高い。
明快に区別されるべきである。
これと類似する混乱は、技術書レベルにも見られる。
助走の方向一つにしても斜め45度という本もあれば真っ直ぐが良いと書かれた本もある。
これは楔型と弓型を同じインステップとして扱うことから来る混乱である。
両者は完全に異なるシステム、メカニズムに属するため分けて考えるべきである。
またインステップキックに関する研究レポートも両者を区別せずに書かれている場合、そのデータの取り扱いに注意を要する。
優先順位
楔型を優先して教える方が良いと考えられる。
まず楔型には弓型にない利点が多い。
・歩行からの接続が自然である
・小さな動きで打つことができる
・小さなスペースから打つことができる
・シュートにタイミングを合わせづらい
・軸足が地表面の影響を受けにくい
これらのメリットはゴール前の狭いスペースからシュートを打つ場合、特に重要である。
次に楔型の動きは行動の開始が小さいため、相手から意図を見抜かれにくくなる。これは後に見るように他の動作にも応用可能である。
伸張反射を利用する動きは一般的に習得しにくい。これを先に覚えることは、他の動きにおいても同反射を利用する可能性を開く。
以上が楔型を優先すべきであるとする理由である。
教え方
楔型においては真っ直ぐ、タイミング、リラックスといった大枠が非常に大切である。
軸足はボールから何cmといった指導は必要ないものと考えられる。また細か過ぎる指導が、選手の未来にとって有用であるかどうか非常に疑問である。
発見と定着
細かな指導とは逆に、技術は選手自身に「発見」させるべきであるとする指導理論も存在する。
確かにそれが理想だがこれは非常に時間がかかり、どのタイミングでどれだけのことを教えるかという問題が常につきまとう。
発見をうながすためには、それに適した条件を与えれば良いとされる。
楔型を例にとるならば、それを発見するのに適した条件とは滑りやすい地面を与えることである。
滑りやすい地面では、軸足を上から踏み込まざるを得ない。このことは楔型の動きにつながる。
このような条件を与える最も単純な方法は、スパイクではなく普通の底の靴で練習することである。
スパイクを脱ぐことは楔型を学んだ後、その技術を定着させることにも適しており、良い方法であると考えられる。
余談ではあるが子供にスパイクを与え、それをひっかけやすい地面を与えることは、力任せに動く癖をつけることにつながりかねない。
立派な道具を与えることが選手の未来にとって有用であるかどうか、これもまた非常に疑問である。
この点についてはドゥンガの「勝者の条件」という本で指摘されているのでご一読いただきたい。
正しいインステップキック
インサイドキックにおいては無駄な存在であるパター型のインサイドに対して、あえて「正しいインサイドキック」という表現を用いた。
「正しいインステップキック」というものが存在するのかと考えた場合、楔型と弓型はそれぞれメリット、デメリットがあり、両者ともに存在意義があるものと考えられる。
次に上で述べた楔型が、他の動作と関連する例を見る。
【蹴球計画】より ※この内容は蹴球計画のミラーサイトとして作成しています。詳細についてはこちら。