2008/05/21 UEFAチャンピオンズリーグ 決勝
マンチェスター・ユナイテッド 1-1(PK 6-5) チェルシー
監督 アヴラム・グラント
フォーメーション 1-4-1-4-1
「遂に今年も終わりを迎えた」
「今年というか、今シーズンやな」
「最後の勝者はユナイテッド」
「1-1の同点、延長でも決着つかずPKへ」
「サドンデスの末、マンUの優勝」
「非常に拮抗した熱い試合であった」
「先発はこうなっていた」
「チェルシーの方は完全に予想通りやな」
「それはシーズン中、普通に試合を見ていた人ならほとんど当る」
「まあな」
「難しいのは、マルダかカルーかという一点だけやしな」
「マルダを使ったということは、より守備を固めて始めようということになる」
「決勝の判断としては常識的で攻めなければいけない場面で、カルーを投入できるメリットもある」
「つまりは持ち駒やな」
「一方のユナイテッドの先発予想はこうだった」
「しかし」
「実際にはこう」
「うむ」
「これは意外というか」
「男前というか」
「何というか」
「クリスティアーノ・ロナウドが左に来ている」
「この意図というのは明白で、ここを起点に攻めますよということになる」
「要するに点を取りに行くということか」
「これまでも、このポジションでよくプレーしていたからその意味では普通ではある」
「しかし決勝で相手がチェルシーであることを考えると、色々話が変わってくる」
「まず左を中心に攻めた場合に怖いのは下の筋やな」
「左から攻めるならば、それをフォローするためにエブラは上がらざるを得ない。そうなるとサイドにスペースが残る」
「そこをドログバへのロングボールから狙っていく、というのはチェルシーの大好物なわけやな」
「相手がいらっしゃいと言っている場所に敢えて飛び込むというのは、実に男らしい」
「次にロナウドを左に置くと、前線へのロングボールを使いづらくなる」
「ルーニー、テベスではテリー、カルバーリョ、エシエンを相手にすると勝ち目が非常に薄い」
「実際に試合でも勝てなかった」
「1-4-1-4-1を相手にするとどうしても入れる場所がなくて、長く蹴らざるを得ない場面が増える。そこで目標がないのは厳しい」
「ロナウドが競った方がなんぼかましやということか」
「そうやな」
「次にロナウドを左に置くとエシエンに対するマークの問題が出る」
「エシエンがおとなしくしてるうちは攻めるロナウド、守るエシエンであんまり問題はないねんけどな」
「例えばマンチェスターが狙い通りに先制した場合、それを取り返すためにチェルシーは攻める。攻めに入った場合、必ずエシエンが上がってくるからそれを放っておくわけにはいかない」
「彼のオーバーラップから得点が生まれるのは良く見る姿やからな」
「そうなると誰かがマークする必要がある」
「この形やとロナウドがつかなしゃあない」
「となると守備での負担が重くなる」
「守備に走らされると攻撃が鈍る」
「ロナウドを左に置くと、はたしてその辺がどうなのかという不安が残る」
「そのような状態を避けるなえあ、最初から下の図でええやないかということになる」
「つまりは予想の先発なわけか」
「そうやな」
「しかし、ファーガソンのクリスティアーノ・ロナウドに対する信頼はすごいと思わんかね」
「確かに」
「もしこの状態が頻繁に起こったら試合にならへんわけやしな」
「これが起こらない、つまりクリスティアーノ・ロナウドがエシエンに1対1で負けることは絶対にないし、マケレレやジョー・コールがヘルプに来たとしてもボールを失わないという確信がないとこの先発は組めない」
「チェルシーはマルダを使って安全指向。マンチェスターは最初から有り金の8割を賭けるような大胆な起用」
「はたしてその結果どうなったかと言うと」
「前半は見事にマンUのペースになった」
「鍵は26分の先制点」
「ブラウンからのクロスを逆サイドでロナウドがヘディング」
「見事に決まって1-0」
「左サイドに置いたロナウドが、まさにぴったりとはまった得点だった」
「エシエンはロナウドのヘディングを警戒するあまり、前に入ろう入ろうとしてクロスに対してかぶってしまった」
「かぶるというのは要するに、頭の上を越されるということやな」
「それにしてもピッタリな起用やな」
「それはそうだがクロスが上がる前の段階で、ランパードが届かないボールに詰め過ぎてかわされたミスも見逃せないところやで」
「この後は先制点を取られて前に出るチェルシーの裏を取ってカウンター」
「34分のクリスティアーノ・ロナウド、42分のルーニーからのクロスは両方点になっておかしくなかった」
「これは先に強気に張ったユナイテッドが優ったかと思いきや」
「一番悪い時間に同点に追いつかれる」
「チェルシーのゴールがまさに前半終了間際の45分に決まる」
「マルダのドリブルをリオ・ファーディナンドがギリギリでクリア」
「そのボールがちょうどいい形でランパードの頭に合う」
「右にできていたスペースに流しエシエンが走り込む」
「ゴールまでの距離は30m」
「しかし迷わずシュート」
「それがディフェンスに当る」
「当ったボールは傍にいたファーディナンドの背中を直撃」
「上手い具合に走り込んでくるランパードの前にこぼれる」
「前に出るキーパーの鼻先でシュート」
「ゴールネットを揺らした」
「うむ」
「しかし何だ」
「何だ」
「これはすごいな」
「チェルシーにとってはとんでもない幸運やな」
「相手に当ったボールが3回も都合の良い場所に飛んでいる」
「ビリヤードでも難しいという話やで」
「そりゃ、3クッションは難しいわな」
「そしてこれで展開ががらりと変わる」
「後半は完全にチェルシーのものだった」
「マンチェスターは前に急ぎ過ぎて悪い形でボールを失う、急いだボールがつながったとしても受けた選手が孤立してしまう、孤立した状態を無理なドリブルで打開しようとしてまた悪い形でボールを失う、という実によくない流れになった」
「いわゆる悪循環というやつな」
「正に」
「おまけにエシエンが頻繁に上がるようになって、ロナウドが後ろに走る機会が増えた」
「前に見たこのパターンやな」
「それもあって、ロナウドのパフォーマンスは時間を追うごとに悪くなっていった」
「こうなると交代が注目されるわけだが」
「最初の交代はマンチェスターで86分、スコールズに代えてギグスを入れた」
「ふむ」
「なかなか含蓄深い交代やな」
「ロナウドを守備の負担から開放するためにギグスを左に入れるのかと思ったら、トップ下のような位置に入った」
「ロナウドはあくまでも左で行くと」
「次の交代はチェルシーで92分、つまり延長2分にマルダに代えてカルーを入れた」
「これも、ふむという感じやな」
「下がるのはジョー・コールの方が一般的やな」
「彼が一番持久力に欠ける、という判断の交代がこれまでは多かった」
「ところがこの日はマルダが先」
「それだけ出来が良かったということやな」
「ところが、ジョー・コールはそのすぐ後に足を痛めてアネルカと交代する」
「体力がついていかへんかったんやろか」
「どうやろな」
「ユナイテッドは101分にルーニーに代えてナニ」
「そして120分、つまり、30分の延長の最後の最後に両チーム一人づつ交代を行う」
「マンUがブラウンからアンデルソン、チェルシーはマケレレからベレッチやな」
「ちなみにチェルシーのドログバはその5分前に相手にビンタをかました罪で退場している」
「テベスの挑発にのった形やな」
「それはそれとして最後の交代だが」
「完全にPK狙いやな」
「PKの苦手な選手、ブラウンとマケレレをより得意な選手、アンデルソンとベレッチに代えたわけやな」
「PKの結果、マンチェスターが優勝」
「ファン・デル・サルもチェクもPKが得意なキーパーではないから、キッカーが甘いコースに蹴るかミスを犯すかで決まる可能性が大で一番のジョーカーを引いたのはテリーだった」
「5人目で決めれば勝ちだったはずのキックを外した」
「あれはきつい」
「きついな」
「5人目まででユナイテッドで外していたのはクリスティアーノ・ロナウドで、チェルシーで外したのはテリー。チームが勝ったロナウドは次に切り替えられるけどテリーはそうもいかない」
「試合終了後は泣きじゃくっていて、精神的に壊れた状態だった」
「120分トータルではテリーの方が寧ろ良いプレーをしていただけに、何とも言えない気分になる」
「ロナウドは守備の負担もあってどんどん下降線やったしな」
「その点で言えば、ファーガソンの采配では先発からロナウドを左で使うことに関する勝算はどうだったのか、そしてロナウドを左から中央に移す交代を行わなかった理由は何だったのか。この二つのことが非常に気にかかる」
「誰かインタービューで聞いて欲しいところやな」
「そんなこんなで」
「今年はドラマチックかつ残酷な幕切れであったというところで」
「また次回」
「ユーロにて」