2008/04/30 UEFAチャンピオンズリーグ 準決勝2nd Legion
チェルシー 3-2 リバプール
監督 アヴラム・グラント
フォーメーション 1-4-1-4-1
「チャンピオンズリーグ名物、チェルシー対リバプールの対決はついにチェルシーが勝ちをおさめた」
「イントレスティングかつエキサイティングな試合やったな」
「変な横文字はやめてんか」
「すまん」
「素直やな」
「何はともあれ先発やな」
「リバプールの左は丸ごと代わっている」
「ファビオ・アウレリオ、バベルからリーセ、ベナユン」
「チェルシーはマルダがカルーに、フェレイラがエシエンやな」
「両チームともチームの骨格は変わっていないが、21分に事件が起きる」
「裏に抜けたドログバを無理に追ったことで、シュクルテルが負傷」
「ヒーピアに代わる」
「これは痛い」
「非常に痛いな」
「スピードを考えても不安が残るし、後方からの組み立てを考えた時にシュクルテルがいないと非常に困る」
「彼がいることでシャビ・アロンソを潰されてもパス出しに困らない、というのが今シーズンのリバプールの強みやからな」
「1点以上取らないと勝ちがないリバプールにとっては、前半から頭の痛いことになった」
「そう言えばだな」
「何だ」
「チェルシーのシャビ・アロンソに対する守備は独特ではなかったかね」
「独特というか、ほとんど詰めに行かなかったのが特徴的やな」
「彼からチャンスの種を作るのがリバプールの狙いなのに、そこを潰しに行かないのは不思議ではある」
「アロンソに詰めるより、ゾーンをきちんと敷いてボールの入るスペースを潰すことに専念していた感じやな」
「特にチェルシーが32分にリードを奪ってから、追いつかれる64分まではその傾向が強かった」
「アロンソにはずいぶんと簡単に大きな展開や、細かい組み立てを許していた」
「大きな展開というのは、例えば下のようなパスやな」
「左右に40m以上の長いパスでボールを散らしたり、縦へのフィードでディフェンスを押し下げるようなプレーやな」
「これは技術的に上手い下手がはっきりする」
「そりゃ、長いボールを正確に蹴るのは難しいでな」
「特にサイドに蹴るボールに関しては、距離を合わせるという点において才能の差がでやすい」
「下の感じか」
「上手い選手が蹴ると例えば、ワンバウンドしたボールがすっと足元に現れる感じで、コントロールをするとそのままディフェンスと勝負できる体勢になることができる」
「ところがあまり上手くない選手のボールは腿や腹の辺りに来るので、コントロールに手間がかかり、悪いときはワンバウンドでちょうど頭を越えたりする」
「上手い代表はグアルディオラで、彼はこの手のパスが抜群に上手かった」
「今ならシャビ・アロンソやキャリック、ピルロかね」
「逆にディアラやバチスタは、距離を合わせるのがあまり上手くない」
「上手い選手はほとんどいないから、他の誰をあげても逆の例になると思うけどな」
「次に組み立ての例を考える」
「要するに組み立てというのは、ゾーン間や角でフリーになる選手に良い形でボールを渡すということやな」
「そのためには、どうしても相手を騙さないといけない」
「読まれた場所にそのまま出しては絶対にフリーにはならんからな」
「例えば中にパスを出すフェイントから外に出すとか」
「縦に大きく出すフェイクから短く出すとか」
「左に出すフェイントから右に出すとか」
「逆サイドを向いておいて、味方が引いた瞬間に合わせるとか」
「以上の他にもパターンは色々と存在する」
「とりあえず上の4つに関しては、シャビ・アロンソが実際にゲームの中で使用していた」
「さらに言えば組み立てるパスではスピードが大切で、理想的には受け手が触る瞬間に止まっているかコントロールせずに行きたい方向に行けるボールが良い」
「プレースメントも大切で、そのままドリブルして欲しいならコントロール直後にそうできるように、ダイレクトで戻して欲しいなら戻すように、サイドに展開して欲しいならサイドに蹴れる位置に置くとなお良い」
「上のような条件を満たすパスを出すことができれば、”組み立て上手”と呼ばれるわけやな」
「うむ」
「普通はそのような選手には、なるべく早く距離を詰めてパスコースを限定していくもんやけどな」
「チェルシーがゾーンを優先していたのは、わりと珍しいのではないかと」
「そうは言っても同点に追いつかれたのは、ゾーンを重視して待ち過ぎたのが発端やけどな」
「左に戻ったドログバが、キャラガーに寄せていかなかったのが原因やったな」
「あれは個人のミスといえばそうかもしれん」
「リバプールがベナユンの見事なドリブルから、トーレスのゴールで追いついたのが64分」
「69分にチェルシーが交代を行って、カルーの代わりにマルダが入る」
「リバプールはこの前の段階で、ベナユンとカイトを入れ替えていた」
「77分にはそのベナユンに代わりペナンが入る」
「ペナンはオドンコーなんかと同じで、一度も相手に向かず、最初からスペースに走り過ぎるのが惜しい」
「速い選手にはその傾向が強いというのはある」
「1-1のまま延長戦に入り、最終的な配置は次のようになる」
「チェルシーはジョー・コールとランパードが下がり、アネルカとシェフチェンコ。リバプールは3-1とリードされた後にトーレスが下がりバベル」
「そのバベルが破壊的なロングシュートを決めて、3-2としたものの時既に遅く」
「チェルシーが初の決勝進出を決めた」
「守備を主体とした両チームの対戦ながらゴール前のプレーを多く、スペクタクルとしても面白い試合だったのではないかと」
「ただな」
「なんや」
「どうにも気になることがあるんや」
「だからなんや」
「リバプールのコーナーキックやねんけどな」
「コーナーか」
「オープンに蹴るにしてもクローズに蹴るにしても、中央からファーポスト寄りのスペースを狙うことが多いやろ」
「そうやな」
「それは理屈で考えても効率が悪いと思うんや」
「何でや」
「例えばクローズで蹴るコーナーでは下のゾーンを狙うのが一番効率がいい、ということを昨シーズン後半におけるスペインリーグのデータは示していた」
「その辺りの詳細はこちら(※リンク切れ)をご覧いただくとして」
「リバプールの狙うゾーンよりも、こちらの方が効率がいいというのは下の図を見ても納得がいく」
「これはどういうことや」
「青い線と赤い線に対してキーパーが反応したとして、①と②で動く距離は同じなわけや」
「ふむ」
「そうなると、どちらに反応しやすいかというと当然②の方が良い」
「ボールが長く空中にある分、出る時間があるということか」
「そういうことやな」
「それはそうかもわからんな」
「この点は前の試合から気になっていたわけや」
「気にしいやな」
「そこで思い至るのが、もし今シーズンこのようなコーナーキックを繰り返していたとしたら、リバプールのコーナーキックの成功率は低いのではないかということなわけやな」
「そう来たか」
「そこでプレミアの35節、フラム戦までの全ゴールを調べたわけや」
「ご苦労なことやな」
「結果はこうなった」
「1本だけか」
「ニューカッスルとの試合の2点目で、カイトがコーナーキックからヒーピアのそらしを押し込んだのが唯一や」
「コーナーからヘディング一発で決めたようなゴールはゼロか」
「ゼロや」
「うむ」
「これから直ちに赤いゾーンへ蹴るパターンは効率が悪いとは言えないが、それと矛盾しない結果ではある」
「疑いがあるといったところやな」
「そうなるな」
「とにもかくにも、決勝はチェルシー対マンチェスター・ユナイテッドと決まった」
「プレミアの頂上対決が、ヨーロッパの頂上対決でもあるわけか」
「上で出てきた組み立てに関して言えば、ユナイテッドにはキャリックがいる」
「彼も上手いな」
「特に横パスやバックパスをワンタッチでスルーパスを出したり、ラインの裏に落とす技は絶品なのでぜひご注目いただければと」
「いうところで」
「また次回」