組み立てについて
組み立てとはボールを相手ゴールに向けて運びラストパス、もしくはシュートにつなげる過程を指す。
ボールを運ぶ手段は二つある。
パスとドリブルである。
ここではパスについて考える。
まず組み立てにおける良いパスと、悪いパスの違いに注目する。
組み立てにおける良いパスの条件は、受け手に優位な状況を作ることである。
言葉を変えれば、できるだけ困難な状況に陥らぬよう配慮することである。
そのためにはボールを受けた選手と最も近いディフェンダーとの距離が、なるべく開いている方が良い。
また受けた選手が次のプレーに移りやすい方が良い。
コントロールに手間がかかる。利き足で出したい状況で逆足に来る。ボールに触るためにバランスを崩さなければならない。
このようなパスは受け手に困難を与える。
これらの点について具体的な例を見る。
受け手と最も近いディフェンダーとの距離
良い例
図は白い矢印のパスが通った後の状況を示している。
ボールを持っているチームは白い矢印の方向に攻めている。
ファーストタッチの瞬間の最も近いディフェンダーとの距離を見る。
オレンジの線が距離を表している。
上の例では、ボールを受けた選手と最も近い守備者の間に十分な距離がある。
二番目と三番目の写真は相手陣に入っている。
相手陣で周囲との距離がある状況を作れば、組み立ては成功したと言える。
悪い例
赤いチームがボールを持っている。
自陣で空中にあるボールを中央に浮かせてパスした。
結果、下のようになる。
ボールを受ける選手は、黄色い相手選手にのしかかられている。
受け手と相手の間に距離がない。
自陣で前方にパスを送る。
受け手は完全にプレッシャーを受け、相手との間に距離がない。
サイドラインから中央にパスを送る。
パスの前から相手が受けての近い位置におり、パスを受けて二人に囲まれた。
これらのようにパスが通った後、受け手と最も近いディフェンダーとの距離がつまっている場合、受け手は困難な状況に陥る。
一般にパスを受ける選手のファーストタッチの瞬間に、最も近い守備者との距離は遠ければ遠いほど良い。
ある選手の組み立てが上手いか下手かを論ずる際、これは有力な区別点となる。
適切な機材が揃っている場合、この距離を数値化することは難しいことではない。
このデータを集めれば、組み立てにおける選手の優劣を数字で論ずることができる可能性が高い。
ただし、わざとディフェンダーを受け手にひきつけるパスを出して相手のゾーンを崩す技術がある。
それについては後述する。
次のプレーへの移りやすさ
サイドにパスが出る。
レシーブした瞬間。
コントロールした瞬間に、最も近いディフェンダーと正対している。
ワンタッチ目が攻撃の第一歩になっており、無駄なく次のプレーに移行している。
これは良い例である。
この点での悪い例を見る。
今、左センターバックから右センターバックにパスが出る。
右センターバックは下がって受けた。
そこから体を捻って前を向く。
ここで前にパスを出す最初の体勢が整う。
上の流れは受け手に困難をもたらしている。
実際のパスは白い矢印の方向に出た。しかし赤い矢印の方向に出す方が良い。
ワンタッチで前を向きパスを送ることができる。
上の流れでは、受け手が下がって前を向き直るための時間的な無駄が生じている。
中央へパスが出る。
中央へのパスを後ろから走り込む選手が受けた。
この流れにおいて時間的な無駄はない。
次に悪い例を見る。
中央からサイドにパスが出る。
後ろから走り込む選手は、赤い矢印の方向に動いている。
しかしボールはすでにその前を横切ろうとしている。
この場合、白い矢印へ走る方向を変えざるをえず、時間的無駄が生じる。
スペースへ出すパスの場合、パスと選手の動くベクトルが大きく変化することなく、一点で交わるのが理想である。
相手陣のサイドから中央にパスが出る。
中の選手が受ける。
この時、ボールが腰の高さに近い位置にある。
ツータッチ目の状況は下のようになる。
二番目の写真の段階では、最も近いディフェンダーとの距離がある。
しかしコントロールに手間取るパスであったため、その距離を失った。
これは受け手に扱いの難しいパスを出したサイドの選手の責任である。
コントロールに手間がかかるパスは次のプレーに移る段階で困難を生み、常に組み立てを阻害する。
ここまでボールを受ける選手と最も近いディフェンダーとの距離と、次のプレーに移りやすいか否かについて良い例と悪い例を見た。
実際には、この二つは複合して現れる。
それを以下に見る。
またパスを出す選手とパスを受けた選手の、最も近いディフェンダーとの距離の違いにも注目する。
サイドから縦にパスが出る。
パスを受けた選手は半身で外側を向いている。
ディフェンダーは非常に近い位置で腰を落とし、ボールをのぞき込んでいる。
完全に守備側に有利な状況であり、この時点で組み立ては失敗している。
二つの写真のオレンジの線を比べる。
最初、パスを出した選手と最も近いディフェンダーとの距離は9mほどである。
これに対しパスを受けた選手とディフェンダーとの距離はゼロに近い。
パスを出す段階では非常に余裕があり、攻撃に有利な状況であった。
しかし出た先では、その優位が全くなくなっている。
持っていた優位性を次の選手に還元できなかった点において非常に悪いプレーである。
中央からサイドにパスが出る。
ファーストタッチの瞬間、相手と10mほど距離がある。
セカンドタッチでは、それが3mほどに縮まる。
バックパスを出す。
受けた選手はプレッシャーを受ける。
一連の流れは組み立てとして最悪に近い。
まず最初の選手が受けた瞬間と、次の選手が受けた瞬間を比べる。
相手との距離が縮まっているのがわかる。
通常バックパスが行われると、その距離は開く。
ここでは逆であり、味方を危ないゾーンでより余裕のない状況に置いている。
また二番目の図で受け手の左足にボールを置いている。
これも最悪である。
相手は左側からプレッシャーをかけてきており、左にパスを出せばボールがむき出しになる。
加えて受ける選手は右利きである。
この状況で左足へパスを出す理由は何もない。
右足へ、ワンタッチで長く蹴ることのできるボールを送るべきである。
バックパスを出した選手は非常に余裕のある状況から、受け手を極めて困難な状況に追い込んでいる。
組み立てが下手な選手は、
・パスを出した先で受け手と守備の距離が近い
・次のプレーへの移行に困難を生じるパスを出す
・余裕のある状態を余裕のない状態へと変換する
以上の特徴を持つ。
上手い選手は逆である。
これらの点に注目すれば組み立ての上手い、下手を論ずることができる。
しかし、これはその条件を定義したに過ぎない。
次に上手い選手と下手な選手の技術的な違い、そして下手な選手はどのようにすれば上手くなるのかという点が問題になる。
次回は(不明)それについて述べる。
*注:ここではラン・ウィズ・ザ・ボールはドリブルに含める
昨日、決勝のドイツ戦と緒戦のロシア戦を見直してみましたが、組み立てという観点でいうとドイツ戦の方がはるかにスムースでした。
私は、浅学ゆえに、ゾーンディフェンスから積極的にプレッシャーを掛ける場合と、マンツーマンで守る場合を時々混同する場合があります。
ただ今回ご教示いただいた組み立てのシーンに注目したところ、前者(ドイツ戦)の場合はどちらかといえば、ラインを作ってボールホルダーにアプローチし、
後者(ロシア戦)の場合はボールホルダー・ボールレシーバー双方に体を寄せている違いが分かりました。
以下質問させていただきます。
この度お示しいただいた「条件」をディフェンス側の視点に立った場合、
よくいわれる「マンツーマンで○○を消し、組み立てを阻害する、あるいはそのことに成功する」という表現は、
他の試合では上手に組み立てられている選手が、「上手な条件」が裏返って「下手な条件」に当てはまってしまうと見てよろしいのでしょうか。
2008/07/29 09:17 - ZERO
ディフェンスの側からすると、マンツーでつくことに大きく二つの意味があります。
一つ目は、常に近くでマークすることで、対象となる選手にパスが入りにくくなります。
ボールを受ける回数が減れば、パスを出す回数も減ります。
組み立ての上手い選手がパスを出す回数が減れば、それを阻害することつながります。
二つ目は、ボールを受けた場合にマンツーマンの守備者が近い位置にいることで、パスコースを限定することができます。
限定されれば、パスを受ける先の選手が近い位置に守備者を持つ可能性が高くなります。
これにより、良い組み立ての条件が満たされにくくなります。
パスの数そのものを減らす、出るパスの質を低下させる、二つの効果が重なり組み立てを阻害することにつながります。
またなにかありましたらお寄せ下さい。
2008/08/02 08:51 - studio fullerene C60
無題
読ませてもらいました。丁寧に書いてくださってありがとうございます。
僕は部活やクラブなどでサッカーに本腰入れて取り組んだ経験がない人間なので、今回の考察は非常に勉強になりました。
早くも2に期待が高まっています(わがまますぎですかね笑)。
ところで今回は、選手の観点から組み立て(特にパス)について考察したものだと思いますが、
監督の観点から組み立てというものを考えると、どのようになるのでしょうか?それがいわゆる戦略というヤツなのかな、と思っています。
ちなみに僕自身は戦略という言葉を戦術とセットになった概念として使っています(経営学からのパクリです…)。
戦略はゲーム全体の戦い方を決めるもの、戦術はゲーム内の各局面での戦い方を決めるものという区別です。
戦略においては監督の果たす役割が重要であり、戦術においては選手の果たす役割が重要になる、という感じで理解しています
(無論、戦略にも選手が関わるし、戦術にも監督が関わることがあるとは思います)。
↑
蛇足ですが、「この言葉の使い方が正しい」とか、「皆にも使って欲しい」という意図ではなくて、
「私自身の語用法を知っていただくことが、生産的なやりとりにプラスに働くはず」という意図で書きました。
本来ならサッカーの用語で、戦略・戦術に該当する概念を使うべきなのでしょうが、勉強不足なもので…。すみません。
2008/07/29 13:52 - シムラ
例えば、チームの構成とロングからミドルのパスによる組み立ての関係、という面からの文がこちらにあります。
http://c60.blog.shinobi.jp/Entry/283/
攻撃における長所をいかすために、組み立てにおいてどのような特徴を持つ選手が必要かを考えることは、チームを構成するにあたって重要なことです。
戦術と戦略の間に完全な定義はなく、戦争に関する書物でも筆者が冒頭で定義する場合がほとんどだと思います。
サッカーにおいては、
戦略:ピッチ内での戦いを優位に進めるため、ピッチ外で行われる
戦術:ピッチ内での戦いを優位に進めるため、ピッチ内で行われる
技術:戦術目標を遂行するためにピッチ内で用いられる
という把握でよいと考えています。
もちろん、これは普遍的な定義ではありません。
またなにかありましたらお寄せ下さい。
2008/08/02 09:16 - studio fullerene C60
【蹴球計画】より ※この内容は蹴球計画のミラーサイトとして作成しています。詳細についてはこちら。