2008/11/08 リーガ・エスパニョーラ 10節
バルセロナ 6-0 バジャドリー
監督 ジョゼップ・グアルディオラ
フォーメーション 1-4-3-3
「さて」
「うむ」
「チャンピオンズリーグでは、バシレアを相手に不始末な試合をやらかしたバルサであったが」
「バーゼルか」
「リーガではまたも大量得点」
「今回の犠牲者はバジャドリー」
「見事な散り方であった」
「この試合ではバルセロナの今後を占う上で重要な事実が見られたので、それを追々見ていこうかと」
「よかろう」
「先発はこう」
「注目はシャビ」
「何でや」
「最近、インサイドの話で良く出てくるからやな」
「そうか」
「見た限り、彼はパター型のインサイドキックをこの試合で一度も使っていない」
「ほんまかね」
「これはパター型インサイド不要論の一助になるので、もし使っている場面を見つけられた方はお教え願えればと」
「そのように思う次第でありますので」
「よろしくお願いします」
「というところで」
「試合やな」
「バルサのセンターバックはピケとマルケス」
「前半の途中、この2人が少し言い合うシーンが見られた」
「言い合うというか、スペインでは普通のお話し合いやな」
「その理由を見るのは中々に興味深い」
「これはバジャドリーの守備の仕方に関係している」
「まずピケがボールを持ったとするとビバル・ドラドが軽くプレッシャーをかけ、ゴイトンが下がってトゥレをマークする」
「そうするとマルケスが空くので、そこにパスが出やすい」
「マルケスにボールが送られると、ゴイトンが前に出てビバル・ドラドが下がる」
「これは1-4-4-1-1や1-4-2-3-1のように、ワントップとトップ下が存在する時のよくある動きでもあるわけやな」
「そうなんやけど、ここでは右サイドのペドロ・レオンの動きが注目になる」
「中央のやや高目、ビバル・ドラドに近い位置まで出てくる」
「これはどういうことかというと、下のような形を狙っている」
「マルケスは前に壁をつくられて、なかなか出すところがない」
「そんな時にどうするかというと」
「大きく蹴るフェイントから足の甲を返し横にパスを出す」
「これは彼の得意技でもある」
「上のピンクの矢印のように出すフェイントをかけると、ディフェンスは中央かつ後方に意識が行く」
「そこで横に出せばスペースがあるはずである」
「はずであるわけだが」
「ペドロ・レオンは最初からその横パスを狙っていて、一気に詰めてくるから危ない場面になりかける」
「フェイントをかけて蹴るから、パスのスピードはどうしても遅くなりがちやしな」
「そこでピケとマルケスのお話し合いがもたれる」
「ピケが”横パス危ないから前に蹴れよ”とか言うわけやな」
「それに対してマルケスは”お前が後ろに下がれ下がれ”という身振りで応じる」
「それはどういうことかというと」
「下の形やな」
「マルケスの前がふさがれた時、ピケがポジションを下げることによってペドロ・レオンとの距離を取る」
「そうすれば楽にバックパスが出せるし、それでも相手が出てくるならピケがその裏を狙えばよい」
「最初に距離を取っている分、余裕があるはずやしな」
「このあたりマルケスは手馴れている」
「さすがの組み立て王だけに修整もお手のものやな」
「相手が引いて守っていたり1-4-4-1-1だった場合はピケは別に下がる必要はないけれども、相手が上のように守ってくるならそれに対応する必要がある」
「サイドを高い位置に置く1-4-2-3-1の特徴に対処する」
「試合中の選手による調整という意味で興味深い」
「さらに、相手の意見を素直に聞くピケの態度も興味深い」
「後半始まってしばらくの時、同じようにマルケスの前が防がれるシーンがあるがピケはさーっとポジションを下げる」
「そしてもう一つ、バルサを相手に前に出るバジャドリーという事実は極めて興味深い」
「もうこれは、さすがメンディリバルとしか言いようがない」
「実は去年も同じような試合がある」
「マドリー戦(※リンク切れ)やな」
「恐れずにラインを高く上げて、ぼっこぼっこに裏を取られて、ぼっこぼっこにゴールを決められて7-0というすさまじいスコアでやぶれた」
「そして今回は6-0」
「ある見方からすると、去年の敗戦から学習していないことになる」
「個人的には、あつものに懲りても吹かないその精神に驚嘆するねんけどな」
「そのような見方もある」
「スペインリーグでも若い世代になるほどゾーンからの組織的な守備を重視する監督が増えていて、そればっかりになるとリーガとしてつまらんやろ」
「それにしても7-0、6-0はきついで」
「それはそうやけど1点リードの後、10人の相手に1-4-1-4-1みたいな形でひたすら守り倒して、相手のクリアが甘くなったところをボレーで決めて追加点。
気落ちしたところをカウンターでしとめて勝ち逃げ、とかそんなチームばっかりになったら、ほんまにお先真っ暗やで」
「どのチームの話や」
「どのチームというわけでもないねんけどな」
「はっきりせん奴やな」
「何にせよ前半は4-0で終わる」
「4点ともエトーというのが恐ろしいところではある」
「そして後半どうなるかというと」
「こうなる」
46分: メンドゥンヤニン → アギーレ、ペドロ・レオン → カノービオ
「さすがにまた来たメンディリバル」
「この状況でビバル・ドラドをボランチに下げる」
「ビバル・ドラドという選手は周囲が良く見え、組み立てラストパスに威力を発揮する」
「しかし運動能力、身体能力には恵まれておらず、体を当てていくような守備はできない」
「その彼をボランチに置く」
「今更引けへんというか、何というか」
「あくまで前に出る気満々やな」
「前に出るとき何を狙うかというと」
「いつものパターンやな」
「手筋であるバルサの右サイド」
「要するにヌマンシアやスポルティング・ヒホンと同じ筋を狙う」
「そしてこの後のバルサの交代が、重要な意味を持っている」
「まずは68分」
「マルケスをマルティン・カセレスに代える」
68分:マルケス → マルティン・カセレス
「そして72分にグジョンセンからケイタ、75分にエトーからフレブ」
72分:グジョンセン → ケイタ、75分:エトー → フレブ
「さて、これらの交代の意図は何でしょうか」
「というのが今日の戦術問題か」
「いや、そんなに大げさなもんではないけどな」
「少し考えられてから続きを読まれるとよろしいのではないかと」
「はい」
「それで」
「その意図はというと」
「全て右サイドに効くようにできている」
「マルティン・カセレスはサイドへのカバーがマルケスよりも遥かに速く、フレブは下がってスペースを埋められる」
「トゥレが右に出た場合、ケイタが下がって中央を埋める」
「ケイタを右に置いてくれたら、ちょうどヒホン戦での予想通りやねんけどな」
「残念ながらケイタは左や」
「この一連の交代は重要やな」
「監督が右サイドの守備に問題があることを認めて、それに対処したことになる」
「つまり先発では問題があることを認識しながら、あえてデメリットに目をつむり、メリットにかけているということが垣間見える」
「これは去年、おととしのバルサを考えると非常な安心材料やな」
「戦術的自爆の嵐やったしな」
「しかし右に問題があると認識しているとすると、最初から下の形にした方がいいような気がせんかね」
「マルケス左か」
「ピケかカセレスにサイドのカバーを任せて、マルケスをプジョルとで挟む方が守備的にはええやろ」
「マルケスを左に置くと左前方へクロスに長いパス、という必殺技が使いにくくなるし、シャビ、アウベス、マルケスで右を徹底的に強くするという辺りでそうしてあるのではないかね」
「そうなんかね」
「守備のデメリットより、攻撃のメリットを優先した結果やと思うで」
「何にしても」
「去年までの自爆癖も消える気配で」
「得点力はすさまじく」
「バルサはめでたしめでたしと」
「ほんまにそう思うか?」
「思わんのか」
「確かにボールをキープして失ってすぐプレスをかけて奪ってまた攻める、という自分のパターンに持ち込んだ時は恐ろしく強く見える」
「そらそうやで」
「しかし一つ外れたり、飛ばされたりして、中央からサイドにさばかれるとびっくりするくらい脆い」
「どう脆いんや」
「あっという間にゴール前に行かれるという意味でも脆いし、シュートを打たれる形が非常に危ない」
「ほうかね」
「それが心配なんやな」
「苦労性やな」
「概念的に言うと、バルサはチャンスの数で8対2くらいで圧倒してるとするやろ」
「いきなりなんや」
「これが相手にミスが出ないとすると、7対3くらいになる」
「その数の根拠がわからんけどな」
「概念やから大体の話で聞いてくれ」
「ええけど」
「さらにサイドとトップに強い選手を揃えたチームを相手にすると、6対4くらいになる」
「そうしとくか」
「こうなると相手が先制点を奪う、ということが十分に起こりうる」
「そらあるやろな」
「より前に出なければならない状況になると、右の薄みがさらに強調されることになる。この時、カウンターからの攻撃に耐え切れず追加点を決められて豪快に沈む、という事態になりはせんかと思うわけだ」
「つまりは自分のペースで戦えているうちはいいが、それが外れた時にまずいということか」
「いい時と悪い時の落差が激し過ぎて、一つ裏目を引くとえらいことになる可能性がある」
「ふむ」
「綺麗なんだけど割れ物注意という感じで、もう一つ二つ振幅を小さくする、チームを安定化する変更が必要だと予想する次第や」
「それが杞憂に終わるか否か」
「今後の注目ということで」
「また次回」
「ごきげんよう」
「と言いたいところだが」
「なんや」
「この試合、どうしても触れておかねばならない人がいる」
「誰や」
「バジャドリーの選手やねんけどな」
「あれか」
「わかるんか」
「アルバロ・ルービオか」
「テクニックがしっかりしていて、本当に献身的に働くいい選手やな」
「一家に一台とは彼のことやな」
「そうではなくてだ」
「じゃあ、アセンホか」
「一対一で、右に入るとみせかけて左にシュートを誘い、それを弾いたのは見事だった」
「変なパスミスから、グジョンセンに決められた辺りもチェックポイントやな」
「だからそうではなくてだ」
「だから誰や」
「わかっててやってるやろ」
「やっぱりあれか」
「多分それや」
「ゴイトンか」
「そうや」
「大活躍やったな」
「何とも言えん」
「例えば下のような状況があった」
「いい形でボールを持った選手が、ディフェンスを押し込む」
「サイドのディフェンスを自分に引き付けることで、ライン際にスペースを作る」
「そして、そこにはゴイトンがいる」
「満を持して前方へパス」
「完全に通ったと思ったら」
「ゴイトンはオフサイドポジションにいる」
「何でやねんと」
「一番外側で完全にラインが見える場所にいるのに、なぜオフサイドにかかるのか不思議なところやな」
「おまけに惜しい惜しくないの議論が起こらないほど、完璧に前に出ている」
「次は下の場面」
「次にどのようなプレーが行われるかというと」
「それは縦へのスルーパスしかない」
「ゴイトンは大チャンス」
「おまけに並走するのはマルケス」
「遅さには定評がある」
「これはもらったと思ったら」
「なぜかクリアされる」
「ゴイトンは大きくて速いのが売りなのではないかと」
「そして最後は右サイド」
「ボールを持った選手が、一番サイドの守備者を押し込む」
「ゴイトンは守備者と平行に走る」
「そしてボールをくれくれとさかんに要求する」
「しかしパスは来ず、不満げな表情を見せる」
「いや」
「まあ」
「そんなわけあるかいと」
「ボールを持った選手が、わざわざディフェンスに向かって行くのは下の形を想定している」
「守備をピン止めして、前の選手にサイドへ開いて欲しいわけやな」
「距離があいたところで、右足アウトでさばいて勝負や」
「ディフェンスとしてもそれはわかっているから外にパスが出たら、いかに早く詰めようかと考えている」
「ところが自ら近づいてくるゴイトン」
「敵も味方もみんなびっくりや」
「相手との距離がないからカットされそうで出しにくいし、通っても近いから守備は簡単に間に合う」
「彼はムルシア時代からこういう感じやからな」
「今ひとつ状況と先が読めないというか何というか」
「動き方がわかっていないというか何というか」
「肉体の動きはただものじゃないねんけどな」
「ピケと競り合いながらロングボールを胸でぴたりと止めるプレーなんかを見ても、やはりただものじゃないで」
「ただものじゃないとしても、上の動きでは点は取れない」
「仏作って魂入れずかね」
「ちなみに去年はムルシアでリーガ31試合に出場、21試合先発で1790分プレーして2得点や」
「895分で1点か」
「10試合フル出場ぐらいの時間やな」
「きついな」
「2部では15点取ったことがあるねんけどな」
「そうか」
「そんなこんなで」
「ゴイトンはもったいないというところで」
「また次回」