体のより上側、より内側から足を動かしてボールを蹴る
ここでは全く踏み込まず、軸足を固定したまま蹴る技を紹介する。
これは体を上から、もしくはより中から動かすことにより、強いボールを蹴ることができる実例になっている。
また正しいインサイドキックにおいてムチ効果、捻りの効果を有効に使うことができる実例でもある。これは正しインサイドが、誤ったパター型よりも優れている点の一つである。
画面中央右で黒っぽい選手がボールを持ち、黄色い選手と正対している。
浮いていた右足のつま先を地面につける。
それを再び引き上げる。
一気に振り下ろしインサイドで蹴る。
12~13mほど先の味方に渡る。
ここでは相手と正対したまま膝の伸展と足の捻りを利用して、蹴り足方向にパスを出している。
正しいインサイドキックにおいて裏としたものと同じメカニズムである。
ここでの注目はこの図である。
この前後を、より詳しく見ると次のようになる。
背中の10という数字の真ん中あたりを注目していただきたい。
その上下にしわができているのがわかる。
これはその部分で、この選手の体が折れていることを示している。
座布団を折り曲げると、折り曲げた部分の表面にしわができるのと同じ理屈である。
つまりこの時、ロナウジーニョの体にはだいたい下のピンクの線の部分において折れ曲がり、いわゆるキンクが発生している。
折れるということはこの場合、ピンクの線から下が後方に曲がっていることを意味する。
通常、足を引くというと股関節から下、白い分より下を引くことを意味するが、この選手はより体の上、体の中心に近い位置から足を引いている。
これは強いキックを蹴る上で非常に重要である。
体をより上から引くということは、より上側からボールを蹴ることにつながる。
この選手は下図のピンクの部分を使って蹴っている。
これに対し股関節から下を使う場合は、白い部分で蹴ることになる。
これは理屈をこねなくてもピンクの方が強いキックを蹴れそうな気がするし、またそれで正しい。
バイオメカニクスでは、ムチ効果というものが頻繁に登場する。
ものを投げる手のしなりや、ボールを蹴る足のしなりをムチやそれに類似した系に見たてて議論する。
この場合にそれを適用すると、ピンクの方は白に比べて途中まで同じ大きさながら、より長くより太い柄を持っていることになる。
どちらにしばかれるのがより痛いかというと、長く太い方であると想像がつく。
その対象がボールであれば、より速くより遠くへ飛ぶことになる。
ムチ効果というのは、センターレベルの物理で簡単に理解可能なので、興味のある方は調べられたい。
またいかに上手く足先を加速させているかは、下の図からも理解可能である。
これは足を振り下ろす場面を、なるべく細かいフレームで示したものである。
振りが非常に早く、足首部分がほとんど消えている。
この体の末端をより中から動かす、体の高い位置で上と下が分離するという能力は、運動全般において極めて重要である。
例えばダンスならより大きく無理な動きをした時にバランスを崩さないことにつながり、格闘技なら初動が見えない鋭く強いキックにつながる。
サッカーにおいてはドリブルや接触においてバランスを崩さない能力、小さなモーションで強いキックを蹴る能力につながる。
これは一般に体幹を利用した動作、などと呼ばれる。
練習をする時はこのことを常に頭に置くとよい。
キックを練習するならば、例えば肋骨から下を足だと思って振るだけでも上達がまるで違うはずである。
以上のように正しいインサイドキックは体幹を利用し、ムチ効果を使い、捻りを伝えてボールを蹴ることができる。
これに対し誤ったパター型のインサイドキックにおいて、そのような利点は存在しない。
膝を横に開いて固定し、その下を振るように蹴るため体幹の力やムチ効果を使うことはできない。
また最初から面を固定することを目的としているため、捻りの加えようがない。
力学的に見てパター型は正しいインサイドよりも、弱く蹴ることしかできない。
弱くい上に方向を読まれやすく、体の正面にしかパスを出せないくせにバランスまで崩す。
このような技術に存在意義を見出すのは難しい。
さらには体の正面にパスを出すよりも、正面からずらしてパスを出す方がサッカーをプレーする上で有利である。
次にこの点について詳しく見る。