ゲームメーカーへの対策


2008年5月4日 第35節
ビジャレアル 2-0 ヘタフェ

該当試合において、次のような両チームが対戦した。

下図のようにヘタッフェのデ・ラ・レーのパスさばきが非常によく、前半はヘタッフェのペースだった。
これはエリア内へのセンタリングの数において、4対14とヘタッフェが大きく上回ったことでうかがうことができる。
ビジャレアルは非常に苦しい時間が続いたがカウンターがよく機能し、2-0とリードしてハーフタイムを迎えた。
この状況においてビジャレアルの監督の立場から以下の問いに答えよ。


Q1.
後半に向けての変更を考えよ。ただし選手の交代は行わないものとする。



A1.
前半リードされたとはいえ、内容的に優位であったヘタッフェが同じ方針で戦う可能性は高い。
ビジャレアルはリードを奪った状態で、相手の思い通りにプレーさせる必要はない。
よって守備を重視する変更を行う。

マヌエル・ペレグリーニは、実際に以下のような変更を行った。

ピレスが中央に入りデ・ラ・レーをマークし、ロッシがより左サイドに開いた。

相手の攻撃の鍵はデ・ラ・レーであり、その動きを阻害することが狙いである。

ただし、この変更を行うと左サイドに大きなスペースが残る。

一見危険だが、そうではないことを以下に示す。

まずコントラが出てきた場合、カプデビラが対応する。
能力を比較して、ここから突破される可能性は低い。
この一対一で不利ならこの交代に意味はない。左サイドバックの守備における強さが鍵になる。

次にコルテスのオーバーラップにはロッシが対応する。
またカウンターにおいて、ロッシはコルテスの裏に走り込むことにより起点となる。

左サイドに不安がなければ、中央を厚くした利が大きい。
実際にデ・ラ・レーを押さえられた後半のヘタッフェは完全に失速した。


Q2.
ボランチのポジションに位置するゲームメーカーへの対策としては、
下図のようにフォワードを一人下げてマークさせる方法が一般的である。
これを避けた理由を述べよ。



A2.
ロッシを下げた場合、ニハットが前線で孤立する。
これはカウンターにおいて非常に不利であり、相手を呼び込み勢いづかせる可能性がある。
ニハットの位置にネグレドやフェルナンド・ジョレンテ、シギッチなどのようないわゆるターゲットマンがいる場合は、これも有効な解になる。

次はヘタッフェの監督の立場から考えよ。


Q3.
下図のようにデ・ラ・レーを押さえられたことで攻撃に支障が生じた。
この解決策を述べよ。
交代を行うものとし、ベンチにはこの状況を打開するために理想的な選手がいるものと仮定する。



A3.
相手が残したスペースを活用することが、最も直接的な方法である。
まず一対一でカプデビラに勝つことのできる選手を右サイドの前方に置く。
次に同じサイドのサイドバックにロッシを振り切ることができ、クロスの正確な選手を置く。

相手の守備はカプデビラが一対一で勝つこと、ロッシがサイドバックをマークすることを前提として成り立っている。
これを崩すことが鍵となる。

交代の順番としては上図の①を先に行い、②を先に行うことが基本である。
サイドバックを上げる場合、ロッシからのカウンターで失点する可能性が高まるためである。

ヘタッフェにおいて①、②それぞれについて現実的な選択肢を考える。

右サイドの前方にはパブロ・エルナンデスが最も適任である。
スピードがありドリブル突破に長け、クロスも正確だからである。
しかし彼はこの試合に招集されていない。

代案としてはアルビン、マヌー・デ・モラル、コテロが考えられる。
スピードとドリブル突破を考えると、前二者が適任である。

右サイドバックはコテロとマヌーが候補に上がる。
持久力が高くクロスの的確なコテロが適任である。
守備を捨ててかかる場合、マヌーという選択肢もある。

まとめると下図のようになる。

実際には左サイドにガビランを入れ、グラネロを右に配した。

これは前述の交代と比べて以下の不利がある。
一つはグラネロはスピードに優れる選手ではなく、スペースを縦に行く力が弱いことである。
二つ目は後半から出る選手をカプデビラに当てる方が体力的に優位であることである。
グラネロはボールキープからのパスを得意としている。
その特徴を活かすならば、同時にコテロを右サイドバックに入れフォローさせることが理にかなっている。

最終的に以下のような配置になった。

ビジャレアルは中央を押さえるという主題を貫いた。
これに対しビジャレアルは、デ・ラ・レーを下げグラネロを中央に配したが、ゴール前に迫りきることができなかった。
作戦的にはペレグリーノの圧勝であった。

疑問、感想、修整などありましたらコメントにてお寄せ下さい。

これは面白い!
とても面白かったです。
問1の解答としてFWを下げる、ってのを考えていたので、問2にそのことが問いになっていたのは驚きました。

日本にはこのような戦術云々を教えてくれるようなサイトが多くないので、とても参考になります。
今後もサイトの発展を期待しています。
2008/05/06 07:36 - toku

いい!
通常の記事もおもしろいのですが、この手の企画はとてもおもしろい!です。ぜひ続けてください。
2008/05/06 15:57 - ake

続けてください
面白かったです。勉強にもなりますし是非続けてほしいです。
2008/05/06 16:18 - chan

無題
非常に面白かったです。

問二に関する解答で、ロッシを下げるとニハットが孤立するとあり、これを避けるためにピレスを中に置いた・・・とありますが、
ニハットを下げロッシを残すという手はどうでしょう。

ニハットとボランチの片方でデ・ラ・レーをケアし、奪ったボールを左に浮いたピレスに預ける。
ピレスは斜めにドリブルし、ロッシがサイドに開いてコルテスの裏を狙う。

ディフェンス時にピレスを高い位置に残しておけば決して打てない手ではないのでは、と思います。
「ヘタフェの右サイドはある程度ディフェンスを薄くしても怖くない」とは問二の解答の論拠でもあります。

・・・と書いてて気づいたんですが、これだと中盤から前の陣形は何も変わりませんね。

A    ニハット   B     ロッシ
 ロッシ         ピレス
     ピレス         ニハット
2008/05/06 19:00 - sava

面白いですね。
私も問1でロッシを下げると解答していたので問2は参考になったとともに、自分の意見も標準的だったんだという自信にもなりました。
しかし問1の意図をくむと問3は自然かつわかりやすかったですね。

ニハトを下げなかったのはタイプ的なものですかね?ベテランでデラレーをつききれるかどうかわかりませんし、ロッシは左に流れるためゴール前が薄くなりますよね。

あとデラレーとグラネロをあまりよく見たことはないのですが、来季マドリーに戻ってタイプ的にはどういうポジションになるんでしょうか。
2008/05/06 21:58 - Mike

面白いですね。
私も問1でロッシを下げると解答していたので問2は参考になったとともに、自分の意見も標準的だったんだという自信にもなりました。
しかし問1の意図をくむと問3は自然かつわかりやすかったですね。

ニハトを下げなかったのはタイプ的なものですかね?ベテランでデラレーをつききれるかどうかわかりませんし、ロッシは左に流れるためゴール前が薄くなりますよね。

あとデラレーとグラネロをあまりよく見たことはないのですが、来季マドリーに戻ってタイプ的にはどういうポジションになるんでしょうか。
2008/05/06 23:36 - Mike

コメントありがとうございます。
コメントありがとうございます。
これからも続けていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

ニハットを下げない件ですが、まずプレーゾーンの問題があります。
現在のビジャレアルは、中に入るピレスから左のロッシに開き、低いクロスをニハットが叩く、という流れがメインになっています。
それぞれが得意なゾーンでプレーしており、その構造を変えたくないのではないかと思います。
確かに、ピレスを中に入れるというのは、ビジャレアルとヘタッフェの長所短所を踏まえた上でのことで、一般的な解ではありません。

選手の特徴ですが、デ・ラ・レーはいわゆるゲームメーカータイプのボランチで、少ないタッチでボールを散らすこともできますし、相手を引きつけて裏を取ることもできます。
マドリーに戻るなら、ディフェンスラインの一つ前、ガゴの位置か、さらにその一つ前、スナイデルの位置で使われることになるでしょう。

グラネロは、ボールキープからパスで前線を動かす、いわゆるトップ下タイプです。
ヘタッフェでは、主に左サイドでプレーしています。
マドリー時代のジダン、ビジャレアル時代のリケルメを思い起こせば、その役割を想像しやすいかもしれません。

今後とも蹴球計画をよろしくお願いします。
2008/05/07 20:10 - studio fullerene C60

技術問題もあったらいいな
またまた面白い企画ありがとうございます。
蹴球計画さんを読むことでサッカーを練習するときの技術、戦術的な達成目標がどれだけ広がったことか。
感謝しております。
マクロな戦術的問題だけでなく、選手個人のミクロなプレー選択の問題もやってくださったらうれしいです。
2008/05/14 09:59 - もんぐり

技術問題について
技術問題集ですが、作ろうという意思はあります。
ですが、多岐にわたる状況の整理がなかなか難しく、思うように進みません。
なるべく早く公開できればと思います。
実際の練習で役立っていると聞き、とてもうれしく思っております。
これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします。
2008/05/15 04:09 - studio fullerene C60

お待ちしてます
無理されないでくださいね。
期待してお待ちしてます。
2008/05/16 09:36 - もんぐり

【蹴球計画】より ※この内容は蹴球計画のミラーサイトとして作成しています。詳細についてはこちら

[ 選択に戻る | 次の問題へ ]