2008/06/21 ユーロ2008 準々決勝 (4)
オランダ 対 ロシア 補稿
「さて」
「今更ながらに、オランダ対ロシアについての補足的なものをお届けしようかと」
「この文章は、オランダ対ロシア戦の本稿を読まれてからの方がわかりやすいと思いますので」
「どうぞこちらから」
「読まんでもわかっとるという方は」
「どうぞ続きを」
「しかし、何を今更という感じは拭えないところやな」
「それには一応理由があってだな」
「なんや」
「あの試合というのは、ロシアが左サイドをわざと空ける形で守った」
「危険の少ないオランダの右サイドにボールを持たせるためやな」
「そしてオランダが、無理にそこから攻めようとした裏を取って得点を重ねた」
「オランダがスペースを攻めようと右にファン・ペルシ、ハイティンガを入れたところにカウンターで攻めて行った」
「まさに左のガードを下げて右のストレートを誘い、左のクロスでしとめる作戦が決まった」
「それはそれでいいのだが」
「だが何だ」
「話が綺麗過ぎる」
「ふむ」
「綺麗過ぎる話というのは嘘くさい」
「まあな」
「大体において、綺麗過ぎるというのは胡散臭い」
「世の中には綺麗過ぎる理論と結論は疑ってかかれ、ということわざがあるくらいやしな」
「多分、その信頼できなさというか現実感の薄さというのは、時の経過と共に増して行く気がするので、それが本当にあったことを別の面からも補足しておくといいだろうと思うわけやな」
「ご苦労なことやな」
「そんな褒められても」
「褒めてないけどな」
「そうなんか」
「どうでもええから、そろそろ本題に入ろうか」
「ロシアが左サイドを空けていたというのが本当なら、その証拠が選手配置に残っているはずである」
「そこで毎度お馴染みUEFAのサイトから、選手のいた場所のデータを引っ張ってくる」
「こんな情報を提供してくれるUEFAには感謝しきりやな」
「どうせなら生データと時間別データも流してくれたら嬉しいけどな」
「ロシアで通常、中盤の前側にいたのは右から、サエンコ、セムショフ、ズリアノフ」
「前後の位置に結構ずれがあるけどな」
「まず9番、サエンコのデータはこう」
「ロシアは右から左に攻めているから、右サイドに多くいたことがわかる」
「芝がはげた感じの茶色が濃い場所に、その選手がよくいたことを示しているわけやな」
「右サイドライン側に餃子のような跡が見える」
「せめてバナナといわんかね」
「次に20番のセムショフ」
「中央よりやや上、つまり右サイドに多くいたことがわかる」
「次に17番のズリヤノフ」
「中央より下、左サイドにいる」
「セムショフとズリヤノフが、ちょうど中央の右と左をカバーしている感じやな」
「そしてズリヤノフの外側、つまり図の下側に選手はいない」
「つまり中盤で言えば、ズリヤノフが左の端でサエンコが右の端なわけやな」
「それなのに、ズリアノフとサエンコの位置を比べるとまるで違う」
「まずズリアノフの図に下のような赤い線を引く」
「ペナルティーエリアの端と端を結ぶ線やな」
「ズリアノフの場合、赤線の下側、つまりペナルティーエリアと左サイドラインの間の滞在が少ないことがわかる」
「これを逆サイドのサエンコと比べる」
「右にいるサエンコを無理やり反転させて、左サイドにいるような形にしている」
「明らかにズリアノフと比べて赤線より下側、サイドラインに近いゾーンでの滞在が多い」
「つまり、中盤右側にいたサエンコの方がサイドラインに近い場所でプレーし、左側のズリアノフがより中央に近い位置でプレーしていたことを示している」
「つまりロシアの守備が右側に片寄っていたことを物語っている」
「その点については他の選手を見てもそうなっている」
「まずは11番のセマク」
「この選手はディフェンスラインの前をカバーする役割を負っていた」
「中央より上、ロシアの右サイドに片寄った分布になっている」
「19番のパブリュチェンコ」
「ワントップのフォワード」
「やはり中央より右に寄っている」
「最後にアルシャビン」
「中盤を助けながらトップ下のような仕事をする」
「中央より左にいるが、サイドライン際の滞在は少ない」
「中盤より前の選手は以上」
「オランダ戦においてロシアの左サイドライン際、つまり図の赤線より下側にロシアの選手があまりいなかったことがわかる」
「これはロシアが左を意図的に空けていた一つの証拠になる」
「とまあそういうわけだが」
「どういうわけだ」
「ここで一つ気になることがある」
「なんや」
「上のような図がロシアが意図的に左サイドを空けていた証拠だというのなら、意図的に空けない時の分布がどうなるのか気にかかる」
「まっとうな疑問やな」
「そこでロシアの緒戦、スペイン戦での両サイドの位置を見てみる」
「右のシチョフ」
「左のビリアトレジノフ」
「きちんとサイドまでカバーしていることがわかる」
「おまけにフォワードのパブリュチェンコ」
「ほぼ真ん中やな」
「下のオランダ戦のように右にずれてはいない」
「つまり最初のスペイン戦において、ロシアは右も左もサイドをきちんとカバーしていたし、前線を片寄った配置にしていたわけでもない」
「以上のことからも、オランダ戦のロシアの配置が普通ではない。つまり左サイドを意図的に空けていたことがわかる」
「何とも綺麗な結果やな」
「実に素晴らしい」
「めでたしめでたし」
「と言いたいところではあるが」
「スウェーデン戦を見るとそうもいかない」
「うむ」
「左はビリアトレジノフ」
「ちゃんとサイドまでカバーしている」
「右のズリアノフ」
「内寄りやな」
「サエンコが入った後、中央に位置を移したという事情はある」
「それにしても下の最初の図を左サイドを空けた証拠だというなら、下の二番目の図は右サイドを空けた証拠であると言える気がする」
「そんな気がするな」
「この辺が、データだけから判断する限界かね」
「例えば右サイドの中盤は相手のサイドバックが内に入る癖があれば内に寄るし、敵が左サイドから主に攻めてくれば中央に入る」
「ディフェンスでサイドをわざと空ける以外にも、生息場所が中央よりになる理由はいくつか考えられるから、試合内容とデータを合わせてみないと、データだけからはなかなか正しい試合情報は得られない」
「試合を見て自分が判断したことと一致するデータが残っていれば、その信憑性が増すということやな」
「オランダ戦でのロシアは配置を片寄らせていた」
「それはデータからも垣間見られる」
「そしてそこから繰り出される作戦が綺麗に決まった」
「どうしたらよかったんやろな」
「何が」
「決められたオランダの方は、どうすればよかったのかと思ってな」
「ファン・バステンの方か」
「ファン・ペルシ、ハイティンガを入れて綺麗に逆を取られたやろ」
「あれを防ごうと思ったら交代を我慢するしかないやろ」
「無理に崩しに行かずに忍耐の人か」
「誘いにのらずにじっとしてたら選手の質、特にセットプレーでのキッカーの差が徐々に効いて、オランダの不利な展開にはならんやろ」
「もしそうなったら、ロシアはどうしたんやろな」
「どこかで勝負をかけるんやろうけど、それはどこやったんやろな」
「オランダが誘いに乗らなかった場合に対して、ヒディングからどんな指示が出ていたのか非常に気になる」
「相手の出方を完全に予想して立てた戦術というのは外れた時が怖いし、その対応が難しいでな」
「ミーティングで散々相手はこう来る、こう来ると言っておいて、それが外れると士気にもかかわる」
「そう考えると、むしろ監督としてどう対応したのかを見るために、オランダがロシアの狙いを外した姿を見たかったような気もしてくる」
「かなわぬ夢やけどな」
「全く同じ条件から後半を始めて、途中だけ変えられたら面白いのにな」
「そんなこんなの妄想をしつつ」
「今回はこの辺で」
「ごきげんよう」
参考文献:眞鍋カヲリを夢見て 戦術の教科書
*ユーロ2008オランダ対ロシア戦のディーテルに関する優れた分析があります
オランダ戦のロシアが意図的に左を空けていたと言うのなら、
ギリシャ戦とスウェーデン戦のサエンコが入るまでのロシアは意図的に右を空けていたと言わねばなりません。
私は戦術的な意図というよりも(特に攻撃時における)選手の特徴の問題ではないかと思っております。
EURO期間中は楽しく拝見しておりました。
スペイン優勝おめでとうございます。
2008/07/18 01:34 - ロシアファン
はじめまして。コメントありがとうございます。
オランダ戦は、意図的に空けています。
そうでなければ、あれほど偏った配置にはならないのではないでしょうか。
ご覧頂、ありがとうございます。スペインの優勝は、めでたいかぎりです。
デル・ボスケ体制になり、今後が期待されます。
これからもよろしくお願いします。
2008/07/20 10:17 - studio fullerene C60
【蹴球計画】より ※この内容は蹴球計画のミラーサイトとして作成しています。詳細についてはこちら。