2008/12/13 リーガ・エスパニョーラ 15節 (2)

相手に向くのは恐くない


「さて」

「またも我々の出番か」

「そうらしい」

クラシコで相手にほっとかれたプジョルがどうするかという問題で、プジョルを上げアビダルを中央に入れ、バックパスから組み立てるのはどうかというコメントをいただいた」

「なるほど」

「今回はそれについて考えるとともに、”相手に向くのは恐くない”という点を見て行こうと思うわけだ」

「よかろう」

「プジョルが上がった後、その後ろにアビダルが入ると下のようになる」

「ここからプジョルがターンしてバックパス、アビダルから組み立てることになる」

「これは、いくつか恐い意味がある」

「まず一つはアビダルが背中側にいるということは、プジョルは大きくターンしないとパスが出せない」

「大きなターンからパスを出すのには時間がかかる」

「相手はそれを狙っている」

「この場合、20番のイグアインはトゥレへのパスを切ると同時に、プジョルが後ろにターンするのを待ち構えている」

「その気配を見ると同時にファール覚悟で突っ込んでくる」

「ハーフライン近くでファールをしても守備としては全く危険はなく、もしそれでボールを取れたら大チャンスになる」

「特に右サイドでイグアイン、シュナイダー対アビダルの2対1ができるので、ほぼ確実に突破することができる」

「これはセンターバックにとっては極めて恐い形で、ファール覚悟で突っ込んでくる相手に対して切り返すというのは心理的な負担が大きい」

「潰されたら、自分が守備に参加できないのがわかりきっているから、なおさらやな」

「だから実際の試合でも、プジョルはずるずると前にドリブルをしていた」

「次に相手と向かい合う場合を考える」

「トゥレへのパスをカットされたとする」

「こうなる」

「これとさっきの形、どっちが危ないかという問題やな」

「どう思う」

「正面を向いた後のパスがカットされると、下の形が一番恐い」

「そのまま一番前の選手に出されてドリブル突破、キーパーまで抜かれて失点、というパターンやな」

「この形でフォワードがロナウドなら即死やな」

「この場合、ラウールだからこのプレーはまずないが理屈的には確かに危ない」

「もう一つは下の形やな」

「前に出してワンツー」

「これはパスをミスった本人が防ぐ可能性が残されている分、前の形よりは良い」

「もう一つ良いのは、最初にカットされるパスの精度が良くなれば良くなるほど、そういう攻め方をされなくなることやな」

「確かに」

「つまりイグアインがカットしてその後、簡単にラウールにつなぐことができるというのは、カットが良い形で行われた場合に限られる」

「ところがパスが良くなれば例えカットできたとしても、足を限界まで伸ばさないと触れないような状態になる」

「そうなると次のプレーに移るのに時間がかかる」

「パスを出す側からすれば、自分が上達すればするほど失敗した時のリスクを減らすことができるというのは魅力やな」

「練習しがいがあるし、例え何度か失敗したところでプレーを改善してそれを乗り越えていけば危険を減らすことができる」

「ええ話や」

「おまけに危険とそれから得られるものを比べると、相手に向いた方が良い」

「リスクとリターンという話やな」

「プジョルが上がった後、バックパスが成功したとして下のようになる」

「ラウールがトゥレをマークするために下がった場合か」

「確かにマルケスはフリーになる」

「相手の正面を向いた場合で、同じ結果になるのは下の図やな」

「これは前へのパスを脅しながら後ろに戻すので、リスクはほとんどない」

「それなら、プジョルがイグアインに絡まれるほど深く入らずに途中でアビダルに戻せばいい、ということになりそうだが」

「それをやると下のようになる」

「なんぞこれは」

「イグアインとトゥレの距離を表している」

「深く入らないとイグアインとトゥレの間が空かないという意味か」

「そうや」

「自明といえば自明の図やな」

「トゥレをフリーにするには、それをマークしているイグアインを引き剥がさないといけない」

「そのためにはプジョルが彼を引き付ける他にない」

「引き付ければ引き付けるほどトゥレはフリーになるが、プジョルはプレッシャーを受ける」

「プレッシャーを受ければ、バックパスは難しくなる」

「早い段階で戻せばトゥレがフリーにならず、奥まで行けば上の理由でターンが恐くなる」

「悩ましいとこやな」

「結局この場合、プジョルはどうやったところでイグアインを相手にしないとプレーを動かすことはできないから、やるなら正面から相手にした方がいい」

「自分の周りにスペースがあるということは他の場所にスペースはないということだから、ボールを持った選手が責任を持って仕掛ける必要がある」

「いわゆる、おもちゃ箱理論やな」

「なんやそれは」

「箱いっぱいにおもちゃが詰まってるとするやろ」

「はあ」

「それを部屋に散らかしたら、おもちゃ箱は空になる」

「はあ」

「逆に部屋を片付けたら、おもちゃ箱は一杯になる」

「はあ」

「つまりどちらかにスペースがあるときは、もう一方にスペースがない。これはサッカーにおける普遍的な真理で、それを説明する理論をおもちゃ箱理論という」

「はあ」

「感動してはあ以外に言葉がないやろ」

「それはあれやな」

「なんや」

「ジジかババが言った、有名な短い毛布と同じことを言ってるだけやろ」

「そうやけどな」

「何でそんなけったいな理屈をひねり出したんや」

「小学校の図書館にあった絵本に、そんな話があったんや」

「どんな話や」

「とあるお城に王子様がおって、部屋をちらかして怒られた時に上のような理屈で反撃して、国に怪獣が出て城中の兵隊がそれを退治するために全土に散った時、

 怪獣をお城にかくまってハッピーエンドというお話なんやけどな」

「ますます話が見えない」

「筋ははっきり覚えているんだが、題名や作者を全く覚えていない」

「検索したらええやんか」

「何度かやってみたけど見つからないから、もし上のような話をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひお教えいただければと」

「どうか」

「よろしくお願いします」

「しかし、何で絵本の話になったんや」

「ようわからんけどな」

「サッカーに戻るか」

「ええで」

「下の図で相手が寄せてこないなら、例え少々の危険があったとしてもボールを持って中央に進むことを拒否する理由はない」

「一番良い場所で、どこにでもパスを出す体の向きを保ったままフリーでいられるわけだから、こんなに良い話はない」

「おまけに相手は寄せてこないわけだから、正対する距離を自分で自由に決められる」

「相手との距離が10mあるのに、ミスが恐いから正対するのやめますという選手がいたら、それはあかん」

「おまけに正対する場所も自分で決められる」

「最初は黒い矢印の方向に動いて、自分の好きな場所で中央の選手に向かうことができる」

「向かってこられたイグアインに拒否権はないから、その場所で止まらなければならない」

「自分の好きな場所で先手を取れるということやな」

「これだけ良い条件が揃っていて恐がる理由はないし、常にこのような行動を心がけていればそれに対する経験が蓄えられていき、さらに恐がる理由はなくなる」

「次に自分の好きな場所で相手と正面から向かい合う、という実例を見るねんけどな」

「なんや」

「その例がジダンなんや」

「いい例やんか」

「ワンサイドカットされた状態から、スパっと相手の方を向き、1.5m程度にまで接近してスルーパスを出す」

「得意のプレーやな」

「で、これを見ると”それはジダンが上手いからできるだけで、普通の人はできない”と思われるような気がするんや」

「そうかね」

「しかし、そうではないということを理解していただきたいわけや」

「上手いから正対できるわけじゃなく、正対するから上手い」

「相手と正面から向かい合うプレーを続けることで、そこでの技術を磨いていき、そのことに対する恐怖が一切なくなったのがジダンやロナウジーニョといった選手で、

 もし凡人がその人々に近づきたいと思うなら、それを真似するしかない」

「ジダンが相手と1.5mまで近づけるなら、せめて3mまでは近づきたいところやな」

「3mでいけるなら次は2m80までいきたいし、それができれば2m60に縮めたい」

「最終的には2mくらいまでは近づきたい」

「最後は才能が絡んでくるから難しいとしても、個人個人の限界まで縮めたい」

「そのために必要なのが正しい技術で、それを磨くためには相手と正対する意識を持たないとどうしようもない」

「前を向きたいのにいつも横を向いてたら、永遠に上手くならんしな」

「相手の正面を向くことで周囲にどのような反応を起こすことができるか、そのことによりどのような利益が得られるか、またどのような技術が必要か」

「そのような点を頭においてご覧いただければと」

「そのような次第で」

「相手に向くのは恐くない、ジダン編は」

こちらからどうぞ」

リンク張り間違え
最後の「こちら」が同じ記事にリンクされてますよ。
2008/12/20 06:24 - 通りすがり

Re:リンク張り間違え
修整しました。
リンクミス、誤字脱字は気がつかないと長期に渡り気がつかないので、
教えていただけると本当に助かります。
2008/12/30 06:34 - studio fullerene C60

【蹴球計画】より ※この内容は蹴球計画のミラーサイトとして作成しています。詳細についてはこちら

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