コーナーキックを好きになろう!動機、データ編
「どうした」
「最近思うんやけどな」
「何をや」
「サッカーの中で、コーナーキックというのは寂しい立場にある気がしてならんのや」
「それまた奇妙な思いつきやな」
「例えば試合を録画したとするやろ」
「ふむ」
「すると再生する時にプレーが止まっているところを早送りしたりするやろ」
「選手が怪我した時とかは特にそうやな」
「コーナーキックもボールが外に出てから蹴られるまで、わりと時間がかかるからよう早送りされるわけや」
「確かにそうやな」
「そこで早送りをし過ぎることがよくある」
「そりゃあるわな」
「しかし止めそこなってコーナーキックが蹴られたとしても、ゴールが入らない限り巻き戻さない人が多い」
「多いのか?」
「非常に多い」
「誰が調べたんや、そんなこと」
「これに加えて流れの中から決まるゴールには興味を引かれるが、コーナーキックからのゴールに関心の薄い人も非常に多い」
「まあ今週のベストゴールに、コーナーキックが選ばれることはまずないしな」
「さらには試合場で見ている時もコーナーキックの合間にビールを取ろうとして見逃したり、焼きそばを食べるのに夢中で見逃したりする人が非常に多い」
「だからそれを誰が調べたのかと」
「そんな寂しい立場に置かれたコーナーキックに対してな何とか興味を持てないものか、というのがこの企画のそこにあるわけだ」
「それにしても、何でそんなにコーナーキックに愛を感じているのかがよくわからんのやけどな」
「そりゃ、愛は理屈で理解できたらあかんものと相場が決まっている」
「深いような深くないような」
「まあ要するにコーナーキックの時、そのチームが何を狙ってそのために何をしようとしているのかがわかれば、試合を見る楽しみが1つ増えてまた1つサッカーが楽しくなるんちゃうかということやねんけどな」
「最初からそういうたらええねん」
「それにコーナーの構造を理解すれば、色々とお得なんやで」
「お得かね」
「まず見る人は試合が楽しくなるやろ」
「それはさっき聞いたな」
「次にプレーする人はコーナーでどう動けば点になるかわかるわけやから、迷わずにすむやろ」
「まあそうかね」
「おまけに相手コーナーに対してどこを押さえればいいかわかるから失点を防ぐことができる」
「それはかなり重要やな」
「さらにいえばいきなりコーチをすることになっても、自信をもって教えることができる」
「いきなりコーチをするとはどういう状況かと」
「まあ仮に今コーチをしているとしても、コーナーキックの研究というのはわりと抜けがちなところやから役に立つと思うわけや」
「それはまた色々と盛りだくさんやな」
「盛りだくさんかつお得なわけや」
「お得感にも何かこだわりがあるのか」
「そういうわけではないけどな」
「さよか」
「まあ、前振りはこのぐらいにしてそろそろ始めてもええか?」
「別にかまへんで」
「まずは用語の定義からいこか」
「えらく真面目な方面から入るんやな」
「まずはコーナーキックの軌道に関してオープン、クローズ、ショートという単語がある」
「この感じか」
「オープンとはゴールから遠ざかる軌道で蹴られるもの」
「クローズはゴールに近づく軌道で蹴られるもの」
「ショートは短く蹴られるもの」
「大きく以上の3つがある」
「右サイドのコーナーキックからオープンに蹴られる場合、右足を使うことが多く、クローズに蹴る場合は左足を使うことが多い」
「多いというか、ほぼ常にそうやな」
「たまに例外があるけどな」
「とにかくこの3種類について知るためには、データを集めるしかない」
「そのデータがどこから出てくるのかというのが問題やな」
「それは2006~2007シーズンのスペインリーグにおける20節から38節までの全ゴールのデータから、コーナーキックだけを取り出して議論するわけやな」
「なぜそれを選んだのかね」
「EL MUNDO という新聞社がその時期の全ゴールを動画データとして公開していて便利だから、それをありがたく使わせていただくわけや」
「そのデータは日本からのアクセスが制限されているのが問題やな」
「確かに」
「それでまず何のデータからいくのかね」
「上で3種類の軌道が出てきたから、その割合からいこか」
「うむ」
「コーナーキックから決まった全ゴールは文末の表のように48本あり、軌道別の割合は次の図のようになっている」
「オープンが33%、クローズが54%、ショートが13%か」
「ちなみにこれは”蹴られた全体の数での割合”ではなくて、”ゴールにつながったコーナーキックにおける割合”なのでそこは注意していただきたいかと」
「要するに外れたコーナーについては、どの割合で蹴られたかわからないということやな」
「そういうことや」
「やっぱり、クローズから決まる数が一番多いな」
「そうやな」
「しかし例えばクローズに蹴られた回数が200回で決まったのが26本だから成功率13%、オープンに蹴られた回数が100回で決まったのが16本だから成功率16%、とか何とかそういうデータが欲しいところやな」
「外れたものも含めて全体を調べるとなるとそれは個人では無理なので、ぜひ企業の方々にやっていただきたいところではある」
「そうか」
「それはそれとして、ゴールが決まる割合としてはクローズ、オープン、ショートの順番になる」
「試される回数もその順番やろうから、予想通りといえば予想通りやな」
「次に右足と左足の比率を見てみると、図のようになる」
「右足が67%で左足が33%か」
「つまりは右足が三分の二で左足が三分の一ということやな」
「これも全体のコーナーキックに占める右足の左足の割合がわからないと、何とも言えへんデータやな」
「小ネタ程度には使えるけどな」
「どこで使うかは疑問やな」
「次のデータはコーナーキックが蹴られた後、最初のタッチで決まるかそれとも2回以上のタッチを経て決まるかというやつや」
「最初で決まるというのはコーナーを一発のヘッドでどかんと決めるとか、一発のボレーでびしっと決めるとかそういうプレーやな」
「2回以上というのはニアでそらしてファーで決めるとか、ヘディングが相手に当たって跳ね返りを押し込むとかまあそういうプレーになる」
「グラフはこうか」
「何も書いてない黄色い部分はなんや」
「直接決まったコーナーキックで全体の4%存在するらしい」
「スペインでいうところのゴール・オリンピコというやつか」
「そうやな」
「しかし、1回で決まるプレーというのは半分ちょっとしかないんやな」
「まあショートコーナーは必ず2回以上のタッチで決まるから、その影響が大きいわな」
「ショートを抜かすと1回で決まるものが25、2回以上で決まるものが15で、5対3の割合になる」
「ふむ」
「これをさらに詳しく見て、オープンとクローズにおける1回で決まる割合と2回以上で決まる割合を比べると面白いことがわかる」
「この図やな」
「見てのとおりオープンでは1回と2回以上の割合が接近しているのに対して、クローズではその比率が大きく離れている」
「オープンでは2回以上で決まるの割合が多く、クローズでは1回で決まる割合が多いということか」
「つまり、前者ではセカンドプレーに対する対応がより重要になるということやな」
「これを試合を見る立場で応用すれば、オープンに蹴られる時は誰が最初にヘディングをするかということに加えて、そのヘディングは誰のもとに行くのかというのを気にしながら見ると面白いということになる」
「コーナーキックの鑑賞ポイントの一つやな」
「おまけとついでに、オープンとクローズにおける右足で決まる割合と左足で決まる割合を比べてみる」
「この図か」
「オープンに占める左足の割合は25%で、クローズは38%になる」
「これはまた微妙なデータやな」
「一応、オープンに蹴られるフリーキックで左足の割合が小さく、クローズに蹴られる時に左足の割合が大きいとはいえる」
「となるとオープンに左足で蹴られるコーナーを見た時に、”おお、これは珍しい”とでも叫べばいいわけか」
「そういうことでもあるが、そういうことでもないかもしれない」
「何や、そのはっきりしない立場は」
「この傾向はもっとサンプルの数を増やしたら変わるかもしれないので、何とも言えないんや」
「それやったら前のデータで、オープンの方がクローズよりセカンドプレーで決まる確率が大きい、というのも言い切れなくなるのと違うかね」
「いやそれはより詳しくデータを見ると理論的に当然だという結論が出てくるので、言い切ってしまって問題ないんや」
「ほんまかいな」
「ほんまや」
「では今後それを楽しみすることにして」
「今回はこの辺で」
「ちなみに次回は手始めとしてショートコーナーの分析から始めようと思う」
「何でショートから入るんや」
「一番数が少ないから、慣れるためにちょうどいいんや」
「ほんまかいな」
「ほんまや」
「では次回のショートコーナー編を楽しみにして」
「今回はこの辺りで」
「ご機嫌よう」