イニエスタの示すパスサッカーの意味
正対から守備者を引き付ける。
これにより周囲にスペースをつくリ出す。
正対から正面の守備者を押し込む。
これにより周囲の守備者も押し下げる。
正対から左右両側へのプレーを見せる。
これにより一つ後ろのラインの守備者の動きを制限する。
正対から左右両側へのプレーを見せる。
これにより守備者の視線を自分に引き付ける。
正対から状況を悪くせずに待つ。
これは味方が適切なポジションを取るための時間を作り出す。
正対することで敵の動きを制限し、味方の動く空間と時間を作り出す。
それにより次の行動が容易になり次々とプレーがつながる。
ボールを止めて正面の守備者に向かう。
守備者を押し込み、画面右の選手をフリーにする。
パスを戻した段階で、画面右端に味方が一人増えている。
正対から前へのプレーを見せ適切な時間待ったことにより、味方が増えている。
フリーになった選手から、サイドの選手へパスが出てフィニッシュへとつながる。
この場合、正対から押さずにプレーを続けることもできる。
この状態からワンタッチで中央に戻すことができる。
そうすれば下と似た状況はできあがる。
しかしそうしてできたものは、正対から押してできた状況と似て非なるものである。
まず周囲の守備者を押し込んでいないため、次にボールを受ける選手はより早い段階でプレッシャーを受ける。
次にボールが早く動くため、右外からフォローする選手はよりスピードを上げて走らならければならない。
そのため、より余裕のない状況で前線へと到達する。
パスを出す側、パスを受ける側双方に少しづつ余裕がなくなるため、その次のプレーで失敗する確率が高まる。
結果、正対から押すプレーに比べてより悪いプレーが行われる。
スペインはパスサッカーであると言われる。
今回のユーロなどでは、形容詞をつけて素晴らしいパスサッカーなどと言われる。
しかしパスサッカーとは誤解を生みやすい表現である。
まず非常に多い誤解は「パスサッカーなのだからなるべく早くパスを回すほうが優れている」というものである。
それが進むと「ワンタッチ、ツータッチでどんどん回すサッカーが素晴らしい。それこそがパスサッカーだ」というものになる。
イニエスタが示すところは全くの逆である。
上の例では、正対から一度押してボールを離している。
これにより周囲の守備者の動きを制限し、味方のためのスペースを作り出すと同時に、右外の選手が攻撃エリアに到達する時間を作り出している。
これまでに見たプレーもそうであった。
これらの形を作る前に、正対が決定的な役割を果たしていた。
パスサッカー、本当の意味でパスがつながるサッカー、パスをつないだ後で本当に相手を崩すサッカーとは、正対から相手を押し込む能力によって支えられている。
イニエスタのプレーは明快にそれを示している。
このことは極めて重要である。
「ワンタッチ、ツータッチでどんどん回すサッカーが素晴らしい。それこそがパスサッカーだ」という勘違いをした人は世に多い。
監督、選手、ファン、すべての段階でそうである。
もしこのような価値観でサッカーを行う場合、正対をする選手が邪魔になる。
イニエスタはパスが出せる状況でも、相手を押し込むという一手間をかけてパスを出す。
パスをどんどん回す、フリーの味方をどんどん使う、そのためにフォローを極限まで早くする。
そのような環境では正対から押す前にボールを離すことを強要される。
それを無視して正対からプレーした場合、周囲との齟齬が生じる。
このため周りに合わせるか、チームの方針から離れてプレーする以外になくなる。
チームの方針から離れた場合、当然ながら居場所を失う。
これは非常に大きな問題である。
正対から押すことは、チーム全体としてより良いプレーにつながる。
これは今までに見た通りである。
勘違いしたパスサッカーを押し付ける場合、正しくプレーしようとする選手をチーム全体として潰してしまう。
もしくは正しくプレーする機会を、集団として奪い取ってしまう。
これが選手の成長に重大な悪影響を与えることは明白である。
それを避けるためにも、イニエスタのプレーが指し示すところを理解することは重要である。
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