イニエスタの個人技が持つ意味
ここでは、そのプレーがチームの中で持つ意味を見る。
プレーの途中、相手に正対したままの状態を保っている。
左端の選手に注目すると、前に出るモーションから止まり戻る様子が見える。
イニエスタはその動きを見てパスを出している。
集団として良いプレーをするにおいて、味方のフォローもしくは動き出しを適切な時間待つ行為は必要不可欠である。
その一方で、待つ間に自ら状況を悪くしては本末転倒である。
正対により状況を悪化させずに待つことができる。
Irl 20分58秒
コントロールから一番近い守備者に正対する。
その間に画面上の選手が左に動き、中央にスペースができる。
切り返して中央にパスを送る。
正対からスペースが空くのを待ち、それを利用している。
イニエスタは正対を恐れないため状況を悪くせず、左右への選択肢を保ったまま待つことができる。
これにより味方の動き、フォローを十分に利用することができる。
これはボールをキープし、相手を崩すにおいて重要な要素である。
次に正対の守備者を引き付ける効果を見る。
final 49分10秒
逆を向いた状態から正対を行なっている。
この間に、周囲の守備者が保持者の近くに集まってくる様子が見える。
正対とは以下の状態である。
正対した状態からは常に左右へのプレーが可能である。
これはドリブルにしろパスにしろ同じである。
これを防ぐために守備者は正対方向に動かざるを得ない。
結果として、吸着された守備者がもともといた場所にスペースができる。
自分の近くに守備者を集めることは、その外側にスペースを作り出すことにつながり味方のプレーを楽にする作用がある。
por Ex26分26秒
最終的にオフサイドで終わるが、局所的に守備は崩されている。
サイドに抜けたイニエスタが中央へ切り返し正対を行う。
結果として保持者の左に大きなスペースができている。
この時、一番左端の白い守備者の姿勢は注目に値する。
後ろに下がるため腰を引いた状態にある。
正対からのプレーは正面の選手を受け身に回すだけでなく、その裏を狙うことで周囲の守備者も同時に受け身に回すことができる。
このためパスを受けた味方はより良い状態、よりプレッシャーの少ない状態からプレーを始めることができる。
もともとスペースが広い上に、守備者が後ろに引っ張られていることでより多くの時間が手に入る。
例えば下の状況からサイドへパスを出すこともできる。
しかし一番左端の守備者は、その方向へスタートを切ろうとしている。
先に見たものとの差は明らかである。
相手が待ち構えている状態でパスを出した場合、いかにスペースがあるように見えても、寄せが早いため余裕の少ない状況でプレーせざるをえない。
余裕がない状況ではプレーのスピードを上げざるを得ず、無駄にスピードを上げることでミスが出やすくなる。
正対を通すことでそのようなミスが減る。
これは集団におけるプレーの質の向上をもたらす。
プレーのリズム、スピードをコントロールする意味においても正対は重要である。
一般的にボールを長く持てば持つほど、守備のセットアップが完了する。
よってボールを早く離してつなぐ方が的を絞らせずに攻めることができ、有利であるとの考え方がある。
上の例は必ずしもそうではないことを示している。
まずパスを出せる状態で出していない。
サイドに抜けた後、正対を行なっている。
プレーに時間がかかっているが、ボールを受ける味方の状況はより良いものになっている。
より良い状況であれば上手い選手はより上手いプレーをし、下手な選手もそれなりのプレーができる。
イニエスタは、正対からスペースを作り出すことで味方の能力をより良く引き出している。
それぞれがより良いプレーを行えば、セットアップされたディフェンスであっても崩す可能性は高まる。
互いに少しずつ余裕を渡し合い、それを積み重ねて突破する。
その最初の一歩として正対が存在している。
次回もイニエスタのプレーが持つ意味を見る。