2008/06/21 ユーロ2008 準々決勝 (2)
手のひらの上で
「さて」
「ロシアの右サイドを空けるトラップディフェンスに乗せられてしまったオランダ」
「後半打開を図る」
「まず、開始の46分からカイトを下げて、ファン・ペルシを投入」
「この意味はわかりやすいな」
「右にスペースを残すならボールを持た時に、より良い仕事をするファン・ペルシでそれを突こうということやな」
「そして54分に次の交代を行う」
「ファン・ペルシから8分後か」
「そうやな」
「なかなか素早い動きやな」
「ブラルーズに代わってハイティンガ」
「この意図もわかりやすいな」
「ブラルーズより、ボールを持ってより良い仕事をするハイティンガで、ロシアの残すスペースを攻めようということやな」
「しかしや」
「なんや」
「このオランダの交代は、意図がわかりやす過ぎると思わんかね」
「そうなんやな」
「ロシアが右にスペースを残す、それを利用するためにサイドの2人を攻撃的な選手に代える」
「ごくごく常識的な発想やな」
「常識的ということは、相手にも読まれるということやろ」
「そうやな」
「その相手というのはヒディング」
「恐いな」
「何かそこに罠がある気配がぷんぷんする」
「明らかにするな」
「そしてそれは実在した」
「ハイティンガの投入を契機に、ロシアの選手がオランダの右サイドに残るスペースに殺到するようになった」
「例えばオランダの交代から2分後、56分にパブリチェンコが決めたゴールも、このスペースから始まった」
「選手の大筋の動きとしては下の図のようだった」
「セマクが大きくサイドに出てアルシャフィンのパスを受けてセンタリング、ファーからニアに入ったパブリュチェンコがボレーで決めた」
「下は10番のアルシャフィンが11番のセマクにパスを出した直後でオランダの右サイド、写真の上側に大きなスペースが空いているのがわかる」
「そこにセマクが入り込んだわけやな」
「このようなシーンはハイティンガの登場後よく見られて、他にも下のような例がある」
「オランダのサイドはすかすかやな」
「ハイティンガもファン・ペルシも右から攻めろという指示を受けて送り出されているし、前のカイト、ブラルーズに比べると守備向きではないから仕方がないといえば仕方がない」
「ここまでの流れからすると、オランダはヒディングの術中に完全にはまったということか」
「まさに」
「前半は相手が攻めれない右サイドをわざと空けて交代を誘い、交代によって守備的に弱くなった同じサイドを攻めて逆に点を奪う」
「真に見事やな」
「左のガードを下げて相手の右ストレート誘い、左のクロスカウンターを合わせていくようなものか」
「何の話や」
「ボクシングの話や」
「何にしてもトルコのチェコ戦と並んで、このユーロでの戦術大賞候補の試合やな」
「交代も含めた戦術的な読みが完璧だったという意味では、こちらの方が上かもわからんな」
「逆に言えばオランダのファン・バステンは、ヒディングの手のひらで踊らされた形になる」
「踊らされたというか、そうなる危険を承知の上であえてそこに踏み込んで切り合いを挑んだのではないかね」
「フランス戦の交代を見るとその可能性はあるな」
「やろ」
「でも、そのファン・バステンの性格まで読んでのことだったと仮定したらどうや」
「そりゃ脱帽の上に頭を丸めるしかないな」
「相変わらずわけのわからんことを」
「そうか?」
「何はともあれ、ここまででも十分にヒディングの凄さがわかるのだが、この後がさらに凄かった」
「続きは」