2008/07/08 ユーロ2008 スペイン代表総括 (4)
スペインの4バックについて
ユーロで優勝したスペインの守備陣に疑問が投げられることは多い。
例としてwww.ocn.ne.jp/sports/soccer/magazine/0648.html(※リンク切れ)があげられる。
この点について検討したい。
データはすべてUEFA(※リンク切れ)による。
まずスペインの4バックのフィードの正確性について及第点とは言い難い、という主張について検討する。
フィードとは一般的に、ディフェンスラインなどから長い距離を経て供給されるパスを指す。
UEFAのデータベースにはフィードという項目はない。
よってここではロングパスの精度について調べることで代用する。
フィードの精度とロングパスの精度の間には十分な相関があると考えられる。
スペインのデータは以下のようになる。
成功率、本数ともにセルヒオ・ラモスがトップである。
以下、マルチェナ、カプデビラ、プジョルと続く。
表中のプジョールは文中のプジョルにあたる。
トップのセルヒオ・ラモスと最下位のプジョルの間には、
成功率で14%、90分あたりの本数で5本以上の開きがある。
このデータからは4人をひとくくりにして、”スペインの4バックはフィードの正確性について及第点とは言い難い”との主張するのは無理であることがわかる。
このデータを他の国と比較する。
ベスト4、すなわち準決勝に残った国と比較する。
平均成功率は58%、90分あたりの平均本数は7.39本である。
プジョルを除くセルヒオ・ラモス、マルチェナ、カプデビラの3名は平均以上の数値を残している。
ここからスペインの4バックのフィードが及第点以下であることを読み取ることはできない。
特にセルヒオ・ラモスは成功率において、2位の成績を残している。
及第点以上だといえる。
上の表を90分あたりのロングパス数で並べ変える。
セルヒオ・ラモスは再び2位である。
成功率、本数ともに十分の成績を残している。
話をセンターバックのみに限る。
ここでもマルチェナは平均以上であり、プジョルは平均以下である。
以上のデータから言えることは、スペインのディフェンスでロングパスについて、平均以下の数値を残した選手はプジョルだけであるということである。
ユーロ全体でのロングパス成功率を概観するため表2に選手を付け加える。
スペインに不利になるように、ロングパス成功率を向上させるであろう国を選ぶ。
イタリア、ルーマニア、ポルトガル、フランス、オランダである。
イタリアはプレースタイル的にフィードを得意とする選手が多い。
ルーマニアは歴史的にテクニカルなディフェンスを輩出している。
ポルトガルにはペペ、カルバーリョという世界を代表する選手がいる。
フランスは近年質の高いディフェンダーを輩出している。
オランダはポゼッションサッカーを指向する国だけに、一般的にディフェンスのパス能力が高い。
以上のような理由から、パス成功率が向上すると期待される。
結果は文末の表5のようになる。
平均は成功率60%、90分あたりの本数7.91本となる。
ベスト4の平均は成功率58%、90分あたりの本数7.39本である。
上記の国を加えたことで成功率、本数ともに向上している。
スペイン守備陣の平均成功率は62%、7.81本である。
成功率において、全体平均を上回り本数において劣る。
このデータからも、”スペインの4バックはフィードにおいて及第点以下である”という結論を導くことはできない。
スペインが及第点以下なら、このユーロにおけるディフェンスのフィードが及第点以下ということになる。
そうであるならば、それを主張すべきであるし、その証拠を提示すべきである。
またフィードとロングパスの精度に相関がないというのであれば、その理由も重要になる。
スペインの4バックのフィードが及第点以下であるという事実は、データから知ることはできない。
それにも関わらずそのように主張するのであれば、何らかの確固たる事実をもって証明すべきである。
引き続き、”スペインの4バックは凡庸である”という点について考察する。
まずセルヒオ・ラモスについては上記のロングパスの成功率、本数のデータからその点について凡庸ではないことが示されている。
またルカ・トニとの競り合いに勝利している。
イタリア戦後半だけでいえば45分25秒のプレー、81分53秒のプレーがそうである。
ルカ・トニと競り合って勝てるサイドバックがどれほどいるのであろうか。
これだけでなく攻撃においても活躍している。
一例として、準決勝のロシア戦のパスデータはそれを裏付けている。
1対1に関して、セルヒオ・ラモスに及第点がつけられないという点にも疑問が残る。
良くない形で抜かれたのは緒戦のロシア戦での対ジルコフ、イタリア戦でのカッサーノの2人である。
もしこれを問題にするならば、ジルコフとカッサーノが1対1において平均的な選手であると証明した後でなければならない。
セルヒオ・ラモスを”凡庸”の一言で片付けるのは、あまりにも問題が多い。
逆サイドのカプデビラについて見た場合、これも凡庸の一言で片付けることはできない。
パスがぶれない選手であるということはこちらで述べた。
その点について、データを詳しく見る。
以前に出した数値で、カプデビラのパスはタッチ数が少なく、ぶれがないという特徴があった。
そのようなパスで、タイミングよく動かす場合、ショートパスが多くなる。
よってショートパスにおけるデータを検証する。
ベスト8、すなわち準々決勝に残ったチームの左サイドバック8名について、そのショートパス成功率を見る。
一位はフィリップ・ラームであり、二位はカプデビラである。
カプデビラは、上述の中では平均以上である。
次にミドル、ロングを含めたパス成功率を見る。
一位はパウロ・フェレイラであり、二位はカプデビラである。
パスにおいてカプデビラを凡庸な選手であると言うならば、このユーロは少なくとも準々決勝以降、左サイドバックはその点において、凡庸以下の選手で構成されていたと言わざるをえない。
以上のように、このユーロでは少なくともスペインの両サイドバックを凡庸もしくは、平均以下とするのはデータ上無理がある。
スペインのセンターバック論については、別の機会に譲りたい。
この文章の生データはこちらを参照されたい。
*注:”またカプデビラは一般的に、攻撃面よりも守備面を評価されている選手であることを思い起こされたい”という文は一般論の援用にあたるため削除しました。
お疲れさまです
最近データを検証する更新が多くなっていて、ご負担増かと思い心配しております。
お疲れさまです。
技術の記事も戦術の記事もこれからも楽しみにしております。
2008/07/08 08:57 - もんぐり
ありがとうございます。
数字が並んでいるのを見るのは趣味のようなものですので苦にはなりません。
しかし、UEFAのデータを取ってきて整形するのは手間です。
一括ダウンロードできるようにならないものかと思わずにはいられません。
今後ともよろしくお願いします。
2008/07/11 11:31 - studio fullerene C60
はじめまして
いつも拝見させていただいていたのですが、今回初めて書き込みさせていただきます。
こうやってデータで見ているとプジョルは必要なのかますます解らなくなるのですが、
彼をどういう風に評価なさっていますか?
良い所はどういう所なのでしょうか?
2008/07/08 09:59 - くげ
プジョルについての考察が以下にありますのでご覧下さい。
http://c60.blog.shinobi.jp/Entry/366/
また、コメントが遅れて申し訳ありません。
遅れている場合は無視しているのではなく、その点について考えていると思っていただければ幸いです。
またなにかありましたらよろしくお願いします。
2008/07/11 12:08 - studio fullerene C60
無題
私が引用しました記事に関して、データを用いた検証をしてただき、本当にありがとうございました。
煩雑なデータ処理が多かったことでしょうし、かなりのご苦労をされたと存じます。
私のような素人のためにわかりやすい記事を書いていただいたことに改めて御礼申し上げます。
今後ともよろしくお願いします。
2008/07/08 11:58 - ZERO
丁寧なご返信をいただきありがとうございます。
サッカーは感じるものなので、データなどいじらず、直感で見るのが一番いいと思います。
しかし、選手の評価を正確にするためには、データというのは便利なものです。
以前は、数値データが少なく、どんなことでも言ったもの勝ちのような状態でした。
今後は、このような公開データがどんどん増えるでしょうから、面白い時代になると思います。
またなにかありましたらお寄せ下さい。
2008/07/11 12:06 - studio fullerene C60
はじめまして
こんにちは。
優勝したチームの評論では、「優勝したチームにしてはパス精度が云々」「攻撃陣の出来に比べると云々」といった、話のすり替えを行う記事がよく見られますよね。
このように数値で示していただけると、非常に納得できます。
2008/07/10 13:37 - At
雑誌などの評論は、何かを否定しないと筆者の一分が立たないようなところがあります。
攻撃陣やセナ、カシージャスを否定するのは難しいので、必然的に守備陣が狙われる傾向にあるようです。
これからもよろしくお願いします。
2008/07/11 12:06 - studio fullerene C60
データ処理
データ解析面白く拝見させていただきました。なかなか興味深い話ですね。
いやらしい話かもしれませんが、ちょっとだけ統計をかじっていたので思っていたことを書きます。
ご存知かも知れませんが、(UEFAが算出する)パスの成功率および失敗率というのは、
そのパスの難易度および、そのパスが本当にその場面におけるベストチョイスだったかということについては考慮されていません。
つまり難易度の低いパスをどれだけ成功させたところで、その選手がフィードが上手いということにはなりませんし、
そしてそれが下手糞ではないという科学的論拠にもならないのではないでしょうか?
というのは、おそらくOCNのサイトにあるコラムニストがいうフィードが上手い選手というのは、視野が広く、相手からある程度のプレッシャーがかかっていても、
前線の選手がに良い体の向きでボールを受けることができるパスを出せる選手のことを意味しているものと思われるからです。
そのコラムだけを見ると確かに個人の見解からくるもので、具体的な場面の例を挙げてもらわない限り、その意見が実証されることは無いという意見には賛同します。
結論としてですが、UEFAの出すこのデータはロングパスというある距離より長いパスのデータについてだけ測定されたものならば、
これらはフィードの上手さを判定するにはあまりにあいまいな条件ではないでしょうか?
(もちろん相関関係はあるかもしれませんが、かなり信頼度の低い数値になるものと思われます。)
2008/08/05 20:39 - k
まず、長いキックを正確に蹴ることは、フィードが上手いことの基礎になります。
次に、おっしゃるような判断の要素が入ります。
最も簡素なモデルとして、簡単な状態でのロングキックの精度をaとし、視野、戦術眼、落ち着きといった要素の評価点をbとすれば、
フィードの上手さcは c=a*b のような形で表されるでしょう。
如何に判断が良くても、キックの精度がなければ実用性は低くなります。逆もまたしかりです。
UEFAのデータは、aに近い数値かもしれませんが、それもフィードの上手い、下手に関係します。
それに大きな差がある選手をまとめて「4人ともフィードが及第点とは言い難い」と言った場合、その結論には疑問符がつきます。
もちろん、プジョルとセルヒオ・ラモスの間にある14%という開きが、統計的に有意ではないかもしれません。
詳しい方に統計処理をしていただき、分布と諸量を決定していただければ興味深い結果が出るのではないかと思います。
今後ともよろしくお願いします。
2008/08/09 14:24 - studio fullerene C60
【蹴球計画】より ※この内容は蹴球計画のミラーサイトとして作成しています。詳細についてはこちら。