2008/06/26 ユーロ2008 準決勝 (2)
セスク、トーレス、グィサ
「さて」
「スペインについてやな」
「前のページまででロシアの中盤のディフェンスが、いかにおかしかったかを見てきた」
「そのずれの大きな元はセムショフがシャビをマークする、ズリアノフがセナを見る、アルシャフィンが戻らない、右サイドが空く、セルヒオ・ラモスがフリーになるというところにある」
「この状況でセスクが機能するのは、当たり前といえば当たり前になる」
「セスクというかファブレガスやな」
「同じやろ」
「一応、国際表記も乗せといた方がええやろ」
「そういえば背中はファブレガスやな」
「ビジャが負傷し、34分に彼が入る」
「そのセスク・ファブレガスが、下のような位置でボールを持つとスペインのチャンスになっていた」
「ズリアノフの横の微妙なスペースやな」
「ここを見る選手はいないから、そこでロシアの中盤を引き付けるとより中盤が空いて攻撃が上手くいく」
「最初からそこに入ったというより、入ってから徐々にいい場所を探り当てた形だった」
「ちなみに主に右でプレーしていたシルバが下がってもよく、同じような形になる」
「セスクとシルバは相性が良いな」
「パスコースがお互いにわかるみたいやな」
「セスクが入ってスペインが良くなったのはロシアが中盤にスペースを残していたからで、それならば本質的にフォワードのビジャがそこに下がってボールを受けるより、もともとトップ下を得意とするセスクが受けた方が良い」
「丁度いい場所にスペースがあった」
「ここで一つ問題がある」
「なんや」
「ロシアの守備での大きな問題の一つは、右サイドが空き過ぎることなわけやろ」
「それを修整する手を打たなかったのは、なぜかというのが問題になる」
「一応、後半開始から修整が試みられている」
「明らかにアルシャビンがセナにつくようになった」
「それは、46分から50分までをご覧になればおわかりになるのではないかと」
「しかしこれはあまり意味がなかった」
「なぜならアルシャフィンは、左に切り返すセナに全くついて行けなかったからである」
「切り返されると簡単に置いて行かれてしまい、セナは右足のアウトで縦にボールを入れることもできたし、持ちかえてサイドを狙うこともできた」
「パスコースを切るという意味では、アルシャフィンはなんの役にも立たなかった」
「これはディフェンスとしては困りもので、切ってくれるはずのコースを切ってくれないとかえって混乱する」
「スペインの一点目は正に、中に切り返したセナが縦に入れたことから始まった」
「この試合だけを見ると全く守備向きではないように見える」
「そうやな」
「蛇足で付け加えるとセスクが出た後のスペインのシステムは、1-4-1-3-1-1になっている」
「1-4-1-4-1とかいたメディアもあるが、セスクはセマクを見る必要があるのでシャビよりも前に残る」
「それはさて置き」
「次はトーレスとグィサの動きの差について見てみたい」
「最も単純な方法は、その2人がどういう場所でどのようなプレーをしたかを調べればいい」
「最も単純なのは2人の移動した軌跡を比べることちゃうかね」
「それを調べるのは困難だから場所とプレーで代用する」
「そうか」
「プレーの中でも直接ゴールに向かわないものだけを取り扱う」
「どういうことや」
「中央に入るパスを受けて味方にパスしたりスペースに流れてボールを受けるような動きで、直接シュートに行ったり、一発を狙って裏に動くようなプレーは含まない」
「ふむ」
「おまけにワントップで調べないと意味がないので、トーレスは34分にビジャが退場して69分にグィサと交代するまでグィサは登場後、ロスタイムが終わるまでを調べる」
「トーレスが35分で、グィサが23分やな」
「まずはトーレスの55分10秒」
「ヘディングで味方に落として上手く合わなかったシーンやな」
「58分14秒」
「シルバからいわゆるクサビになるパスが入る」
「おまけに実によく考えられたパスで、敵のポジションのずれをそのまま利用できるようになっていて、トーレスがコントロールしてそのまま前を向いても良く、それをフェイントに止めて味方につないでも良い」
「ボールにメッセージが書かれたようなパスやな」
「しかしコントロールミスでボールを離してしまい、ディフェンスにクリアされる」
「このあたりがスペインでのトーレスの評価を下げる一つの要因になっている」
「そのゾーンでボールを持って何かしてこそ、というところはあるからな」
「次は61分44秒」
「これぞクサビで、本当にクサビ形になっている」
「トーレスはこの3回やな」
「35分で3回」
「大体、12分で1回ということになる」
「グィサについては下のようになる」
「何だこれは」
「一度サイド、特にこの試合では右サイドに流れるというのが特徴だった」
「わかりにくい絵やな」
「グィサの直接ゴールに向かわないサイドでのプレーは71分12秒、72分39秒、77分15秒、82分35秒、86分7秒に見られる」
「5回か」
「23分で5回、大まかに5分に1回の勘定になる」
「トーレスの12分に1回とはずいぶん差がある」
「この2人の差は下のように表される」
「中央にボールが入ってきたときトーレスはそれと逆サイドに動き、ディフェンスの視界から消えようとする」
「そこから一発で裏を取るような動きを狙う傾向が強い」
「それに対しグィサはサイドに開いてボールを受け、中央の守備を薄くした後、そこから前に出る傾向が強い」
「トーレスはより直線的にゴールを狙い、グィサはその前にワンクッション置く」
「いわゆるスペイン的なのはどちらかというと」
「グィサの方になる」
「彼の方が代表のフォワードとしては良いのではないかという意見が根強いのは、このようなところにも原因がある」
「ただグィサのように動くと、ボールは持っているのにいつまでたってもシュートにいけないような状態に陥りやすいというのもある」
「スペイン病か」
「その辺は注意したい」
「まとめるとセスクが入って良くなったのはロシアの守備に原因があった、グィサが入った方がボールが動くように見えるのはトーレスとの動きの差があるからということやな」
「試合全般としてはスペインより守備が薄いのに、スペインと同じ土俵に立って戦ったら、そりゃロシアには勝ち目がない」
「ロシアのゲームプランの詳細は気になるところやな」
「ほんまやな」
「さて今回も質問をいただいたので、それに極力答えてみようかと」
「まず最初はイニエスタの調子が戻ったようだが、食中毒から回復したと見てよいか?」
「以前より動きはいいがまだ良い時のイニエスタには届いていない、というのと調子が落ちた原因が食中毒かどうかわからないので、回復したと見ていいかどうかもわからない」
「食中毒になって調子が上がる選手はおらんやろ」
「そりゃそうやけどな」
「次はイニエスタとシルバはサイドを交換するようになったが、それはベンチからの指示によるものか?」
「ほぼ100%そうです」
「プレビューでイニエスタを使いながらセスクを使うとこの二人が干渉して上手く行かないとあったが、この試合は機能したのではないか?」
「中盤に大きなスペースがあったので、両人にとって必要な場所が確保できたというのがある」
「そうかね」
「もう一つはボールの動かし方で、スペインは後半開始から意図的に左にボールを動かすようになる、そこでイニエスタがプレーできるようになった」
「ほっておくと右に右にボールが流れてたからな」
「相手がスペースを潰して来た時にイニエスタが中に入るとお互いに重なるし、そのような時はサイドから縦にスペースを狙う選手がいて、そこに上手い選手からパスを合わせる方がお互いのスペースを利用するという意味で良い」
「つまり変化なしと」
「この試合の後半でも左に意図的に動かそうとしても、やはりボールは右に流れる傾向が強く、そうなった時にイニエスタは消えている時間が長かった」
「セスク、シルバ、セルヒオ・ラモスが活躍する時間帯やな」
「セルヒオ・ラモスが非常に目立ったというのはスペインの右にスペースがあったし、そこから攻撃していたということになる」
「それについては面白いデータがあってだな」
「なんや」
「これやけどな」
「これはなかなか」
「スペインのパスは、シルバからセルヒオ・ラモスが頭一つ抜けている」
「シルバからファブレガスが二番目やな」
「しかしファブレガスの登場は34分」
「ということは一試合にすると29本から30本ということか」
「実に多い」
「仲良しさんやな」
「イニエスタを見るとセルヒオ・ラモスから16本受けている」
「これは右サイドにいた時にもらった分やな」
「サイドチェンジが16本も通るとは思えんからな」
「やはりスペインの右、ロシアの左の守備に問題があったことがわかる」
「データは語るというやつか」
「次なる質問はビジャが怪我をしたが、グィサをトップ、トーレスをトップ下のような形で使って上手くいかないか?」
「原理的に上手くいく可能性はあるけれども、トーレスがトップ下で本当に機能するためには、周囲の選手がその周辺にスペースができるようにできるように動く必要がある。
今の代表ではそれを実行する時間的余裕に乏しく、それに向いた選手もいないため、まず上手くいかないでしょう」
「とまあ」
「こんなところかね?」
「おそらく」
「そんなこんなで」
「決勝のプレビューはできるだけ早くあげたいと思いますので」
「お楽しみに」
「では、また次回」