2008/05/31 親善試合

スペイン 2-1 ペルー

監督 ルイス・アラゴネス
フォーメーション 1-4-4-2


「ユーロに向けて、代表が準備を進める今日この頃」

「スペイン代表はペルーと親善試合を行った」

「親善試合と言うには激しかったけどな」

「確かに」

「ペルーのファールに、あのイニエスタが切れる場面も見られた」

「普段はいくら倒されても、のれんに腕押しみたいな顔でプレーするのにな」

「珍しく相手にくってかかっていた」

「まあペルーの方にも、それだけやる理由はある」

「スペインには多くのペルー移民がいる」

「移民というのは何かと肩身が狭い」

「代表がまずいプレーをしたり大差で敗れたりすると、それがますます狭くなる」

「勝てばそれが逆になる」

「そうなると、ペルー代表としては気合を入れてやらざるをえない」

「もう一つはヨーロッパ市場へのアピールというのもある」

「活躍してスカウトの目に止まってスペイン移籍、という流れを狙うわけやな」

「特に今の時期なら来シーズンのメンバーに滑り込むことも可能だから、張り切らざるをえない」

「そんな事情もあってユーロの準備試合とはいえ、かなり本気の試合になった」

「テストとしては本気のテストやな」

「そして結果はどうだったかと言うと」

「2-1でスペインの勝ち」

「順当のように見えるが」

「決勝点が後半ロスタイムだったことを考えると、そうでもない」

「スペインの先発はというと」

「ふむ」

「なるほど、という感じやな」

「イニエスタが右に来ている」

「ここから選手がどう動くかというと、こうなる」

「イニエスタが中央に入ることでクッションになり、そこから展開していく」

「彼が中に入る分、右サイドはセルヒオ・ラモスが大きく上がる」

「サイドの前が中、その外をサイドバックが上がるパターンやな」

「前半、この配置でわりとよくボールが動いていた」

「そして後半からは下のようになる」

「ボランチとトップが交代した」

「シャビとシャビ・アロンソが下がりセスクとセナ」

「トーレスが下がってグィサが出た」

「57分にはビジャが下がり、デ・ラ・レーが入る」

「これはどうやろな」

「セスクが中盤の前に入ると、下のようにイニエスタが入るスペースと重なる」

「上手くいかない気配が満載やな」

「それもあってか、その5分後にはこうなる」

「イニエスタに代えて右にカソルラ」

「これならば、いわゆる普通の1-4-4-1-1の構造になる」

「さばくトップ下に、縦に動くサイドというやつやな」

「カソルラのクロスに対して、シウバ、セスクでは空中に弱いというのはあるけどな」

「そして最後にはセルヒオ・ガルシアが右に入る」

「代表デビューおめでとうというやつやな」

「この試合のスペインを見ると、二つのパターンを試したことがわかる」

「一つは右にイニエスタを置き、彼を中に入れてそこから展開するパターン」

「もう一つはセスクをトップ下に置きサイドを縦に動かすパターン」

「ここではイニエスタの方を詳しく見たいと思う」

「うむ」

「その問題点をラインごとに見るとして、まずキーパーとディフェンスについては下のようになる」

「セルヒオ・ラモスが頻繁に上がるので、右サイドにスペースが残りやすい」

「そしてセンターバックの二人、マルチェナとプジョルはユーロレベルにおいてハイボールに強いとは言えない」

「さらにプジョルは組み立てが上手いとはとても言えない」

「次に中盤のラインを見る」

「一見、守備向きの選手が少ない」

「二見してもそうやで」

「まあな」

「守備向き云々というのは、チームでの役割を考えるとわかりやすい」

「例えば、シャビ・アロンソは横にマスチェラーノという潰しを得意とする選手がいる」

「シャビ、イニエスタの後ろにはトゥレ・ヤヤが控えている」

「トゥレが守備向きかどうかは別にして、構成としては彼がシャビとイニエスタをカバーするようになっている」

「シウバも後ろをバラハ、マルチェナ、アルベルダといった選手にカバーしてもらっていた」

「つまりこの4人はカバーされる側ばかりが集まっている、ということやな」

「こういう構成だと、ボールを持ってパスが調子良くつながっている内はいいが、一度劣勢になるととめどなく劣勢になりがちやな」

「最後にフォワードのラインだが」

「まずトーレスにボールがほとんど入らない。そしてフォワード二人の間のコンビネーションもほとんどない」

「ビジャとトーレスは相性が悪いのかね」

「良かった記憶がないな」

「まあそのようなスペインの弱点を考えた上で、相手の対策などを思い悩んでみる」

「一番最初に思い浮かぶのはこれやな」

「ツートップ系のチームなら一人を下げてシャビ・アロンソをマークさせ、もう一人をマルチェナにつける」

「これで、なるべくプジョルにボールを持たせる」

「そうすれば、スペインの組み立てが上手くいかなくなる」

「ペルーも後半からこの方法を採用していた」

「この作戦はバルセロナ対策としても有名やな」

「これをもっと推し進めると、下のような手も考えられる」

「やたらとマンツーマンが多いな」

「前のユーロではギリシャがこの系統の作戦で優勝した」

「今回はどうかという感じやな」

「後は1-4-1-4-1に組んで、左サイドの選手にセルヒオ・ラモスを追わせるか否かで、攻撃と守備のバランスを取る方法もある」

「1-4-1-4-1でのサイド前残しというやつで、サイドに浮いた選手がカウンターの基点になる」

「スペインに対して受けるという意味では、こんな感じかね」

「攻め方としてはロングボールに強いフォワードがいるならプジョル、マルチェナの前、アロンソの後ろをどんどん狙っていくとええな」

「左サイドバックが優秀であれば、積極的に上げることでイニエスタを押し下げることもできる」

「チャンピオンズリーグ決勝でのエシエンとクリスティアーノ・ロナウドの関係やな」

「カウンターは、やはりセルヒオ・ラモスの裏を狙いたい」

「ラモスの裏にロングボールを入れて縦に押し込んだ後、逆サイドを狙う」

「後ろに走るのが苦手なスペインの中盤の戻りは遅れる。だからこの流れに入れば必ずチャンスになる」

「なんかあれやな」

「なんや」

「妙に弱点が多いな」

「まあ中盤を完全にパス重視で組んでいるから、その反動が弱点になるのは仕方がないかもしれん」

「そうはいっても、前のワールドカップでは中盤をいわゆる攻撃的に組んで(※リンク切れ)フランスに叩き潰された苦い思い出がある」

「アラゴネスは出るか引くかの選択を迫られると、根性で前に出ようとする性格やしな」

「まあギャンブル大好きやからな」

「ギャンブルというかスロットマシーン愛好家ちゃうか」

「それはそれとして、あと気になるのはチーム内の矛盾というやつやな」

「どこや」

「まず中盤でパスをつなぐ構成なのに、ディフェンスラインの組み立て能力としてそれを活かしにくいのが一つ」

「あとはなんや」

「攻めを標榜するわりに、フォワードの組み合わせに問題を抱えているのが一つ」

「ほほう」

「最後に右利きのイニエスタを右から中央に入れると射角の問題を生じる」

「色の部分がパスを出しやすい場所か」

「右利きの人間が左サイドから中央に入ると、相手ゴールに対して直接危険なパスを出しやすい」

「下半分がそれやな」

「ところが右から左に入ると直接ゴール前を狙いにくい」

「上半分やな」

「ジダンやリケルメ、ロナウジーニョといった選手が左を好むのはこれも一つの要因であり、はたして右サイドの右利きを引き金にする攻撃が、どれほど有効であるのかは疑問が残る」

「偉大なる実験ということやな」

「そんなこんなどうなるか」

「今後の発展を見つめつつ」

「また次回」

「ご機嫌よう」


【蹴球計画】より