2008/10/04 リーガ・エスパニョーラ 6節 (2)

ビジャレアル対ベティス 交代による具体的な変化例


ここでは試合分析で使用した「イバガサは組み立てが上手く、中央に置くと攻撃が良くなる」「ピレスはボールキープでスペースを作り、それを利用するのが上手い」といった言葉の具体例を見る。
また他の選手や状況との比較も行う。

2008-2009シーズンの第6節、ビジャレアル対ベティス戦においてペレグリーニはギジェを前線にピレスを左に入れ、イバガサを中央に移動させる交代を行った。


先発



58分:

その理由と効果はビジャレアルの2点目に見られる。
以下にその詳細を見る。

自陣でボールを持ったイバガサは、正面の相手に対してドリブルを行う。
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次に左を向きそちらにパスを出すそぶりを見せる。

この結果、前方の守備者はその方向に移動する。
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イバガサは逆に右へと切り返す。
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下の図で守備者が上方、イバガサから見て左側にずれていることがわかる。
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守備者をずらして作り出したスペースにパスを通す。
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相手を逆に動かしたため、より縦方向へパスを出すことができる。

またサイドに出すフェイントをかけているため、その方向へ相手選手がつられている。
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イバガサの一つのパスで、次の上から下の状況に変化した。
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組み立てでボールを前に運ぶという意味において、非常に優れている。
このプレーを行うためには相手と正対する技術、右にパスを通すために左に相手を釣るアイディア、切り返しからパスまでの動作の素早さ、サイドへのフェイクから縦に出す技術、正確なパスの角度と強さというものが重要になる。
特に最後のパスの角度と強さを正確にする技術、パスタッチの良し悪しと呼ばれるものは選手により差が大きい。

パスの下手な選手は広角に強く出してしまい、受け手に合わない場合が多い。
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広角に出すのは前の選手によるパスカットを恐れるためであり、強く出すのは感覚の欠如であることが多い。

この試合、ビジャレアルはセナをイバガサに置き換えた。


先発



58分:

イバガサは特に最後のパスタッチの部分で、セナよりも優れている。
このため上のような組み立てにおいて良くなる場面が増える。

イバガサのパスを受けたジョレンテは、中央のピレスにパスを送る。
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ピレスは前方へドリブル。
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赤いパスフェイクの後、後ろに切り返す。
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下の図を見ると、正面にいた2人のディフェンダーの距離が縮んでいるのがわかる。
その2人は横に動いたため、後ろに動くピレスを追うことができない。

もしパスフェイクを入れなければ、一人の守備者が前に出て後ろからプレッシャーを受けることになる。

距離をとった後、右サイドに切り返す。
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次に赤いパスフェイクを入れてサイドにパスを出す。
パスフェイクは一番外側の守備者を中央に引き付け、サイドへ出るのを遅らせるためである。

ここで画面下からサイドバックのアンヘルがフォローに来る。
ピレスは中央でボールをキープすることで、その時間を作り出した。
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以上の流れにおいてピレスはキープとパスフェイクでスペースを生み出し、それを自分、もしくはパスによって利用している。

「ピレスはボールキープでスペースを作り、それを利用するのが上手い」という言葉の具体例である。

ボールを受けたアンヘルは相手と正対することで、縦方向へ突破するためのスペースと中央方向へのパスコースを確保する。
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ここではワンツーで縦に抜け出すことで、前のスペースを利用した。
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相手と正面から向かい合うことで、突破用のスペースを確保することは非常に大切である。

これができない例は下のようになる。
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濃い芝と薄い芝の境目を縦に移動しており、全く相手と正対していないことがわかる。

また2枚目と3枚目を見比べると、わずかながら外に逃げている。
このようなプレーは守備にとって全く恐くない。

ここでは下のように一度ディフェンス方向へドリブルをして後ろに下げ、その後に縦に行く方が良い。
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このような形で相手に向かうプレーというのは、残念ながら多くの日本選手に不足している。(参考) ※リンク切れ

上の選手はネルソンである。彼はベンフィカ時代、ビジャレアルと対戦した。その時は上のような逃げるがごとき行動は見られなかった。むしろ一番近いディフェンダーへ差し組むように仕掛け、左右どちらにでも抜くことができた。
そのような向かっていく気持ちを失っていることは、非常に残念である。

ワンツーで縦に抜けたアンヘルがクロスを送る。
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空中での競り合いの後、エリア内にこぼれる。
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それをイバガサが回収し、ドリブルで前へ運ぶ。

イバガサがこの地点に到達しているのは、ピレスのボールキープにより時間が生まれたことが大きい。
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このプレーもセナをイバガサに代えた効果が出ている。

セナはイバガサほど狭いスペースのドリブルが上手くなく、おそらくトラップからのシュートを選択したと考えられる。

またこの試合のセナとイバガサでは、ポジショニング自体異なる。

前半、セナとエグレンの2人は、ほぼ常にボールの後ろに位置していた。
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しかし後半、イバガサはボールよりも前に位置し、上のようにペナルティーエリア前後でもプレーしていた。
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ドリブルで抜けたイバガサがファーへクロスを上げる。
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ピレスがボレーをミス、それをジョレンテが決める。
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この場面でギジェ・フランコは、キーパーのバランスを崩す役割を果たしている。
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最後の図においてボレーの瞬間、キーパーは片足立ちになっている。
これは最悪の体勢に近く、次のプレーに対応できない。

ギジェは熱い魂、競り合いを恐れない、泥臭いといった形で語られるがここでもそれらが見られる。

以上のように、この得点においてイバガサの組み立て能力とペナルティーエリア近くでプレーする能力、ピレスのボールキープから時間とスペースを作り出す能力が決定的な役割を果たしている。
前半の配置では、このような場面は生まれない。

サッカーでは個々の選手の良い面が組み合わさった時に点が生まれることが多く、逆にそうでなければ生まれることは少ない。
選手をその長所が活きる場所で使い、また組み合わせとしてより力を発揮する配置、動きにすることは重要である。

ペレグリーノは、それぞれの持つベクトルを組み合わせてチームを一つの方向へ導く術に長けている。

古い記事にすみません
最近ドリブルの練習を重点的に行っているので、色々な記事を読み返しながら学んでいます。
ゴールを向いて相手の正面へ仕掛けていく…実際に無理にでも意識してやってみると無防備になってしまい、そのまま奪われてしまう事も多かったのですが、
次第に慣れてくると、以前より突破できる確率が上がった気がします。少しずつ技術が上がってきたせいか、年々サッカーするのが楽しくなっています。
これも蹴球計画様のおかげです、ありがとうございます。

ところで、記事で日本代表の事が出ててふと思い出したのですが、岡田監督体制になった2008年は、
右サイドバックに19歳(代表デビュー当時)の内田がレギュラーとして起用され続けました。
その抜擢の理由について、岡田監督がインタビューで語っていたのが
「ボールを前にトラップする事ができるから。今までは相手に奪われまいと自分の横にボールを置こうとしていた、
やっと日本のサイドバックにもこんな選手が現れてくれた」というものでした。まさにこの、相手に正対するという事ですね。

また、最近では他のポジションにおいても、アタッカーには玉田、大久保、松井、田中達也といった自ら仕掛けていく選手が同時に起用され
(そのため純粋なストライカーやポストプレーヤーは殆ど出番がありません)ボランチでもドリブルで運ぶ事ができる長谷部がスタメンの座を掴んでいます。

勿論メンバー選考には色々な思惑があるので一概には言えませんが、岡田監督にとっても「これまでの日本に足りなかったもの」が相手へ仕掛ける姿勢だと考え、
そうした事が出来る選手を優先的に起用しているのかもしれません。
ドイツワールドカップのまとめにあった『相手と向かい合う状況で逃げない選手をフォワードや攻撃的な中盤として育成することにより現状を打破できると考えられる。』
という事に近い考えなのかも…?
2008/11/24 22:57 - にゃんこ

Re:古い記事にすみません
お役に立っていると聞き、嬉しい限りです。

正対からのドリブルですが、非常に重要なテーマだと思います。
最近これについて考えているのですが、今のところ、正対からちょっとだけずらして行うことが大きな意味を持つと思っています。

例えば、サイドから45度に入るとして、ディフェンスとの正対方向からほんの少し中央にずらします。
その後、正対方向に小さく押し出してから一気に中へ切り返すと裏を取りやすい、というようなことを考えています。
そのずらし具合や、ずらす方向の組み合わせなどを考えている途中ですので、実際のプレーの中で気づかれたことなどお教えいただければ幸いです。

日本代表で、そのような理由で選手を選ばれいるとしたら、やはりそのような問題意識を持っておられるのだと思います。
以前、中国で行われた、東アジア選手権の中国戦を見る機会がありました。
その時、正面から相手に向かっていくという意味では、ヤマセという選手がもっとも良かったと記憶しています。

今後ともよろしくお願いします。
2008/11/27 07:28 - studio fullerene C60

【蹴球計画】より ※この内容は蹴球計画のミラーサイトとして作成しています。詳細についてはこちら

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