2020/02/23 J2リーグ 第01節
ジュビロ磐田 2-0 モンテディオ山形
監督 フェルナンド・フベロ
フォーメーション 1-4-4-2
新たなる船出
2020シーズンJ2リーグ開幕戦を迎え、クラブの新たなる一歩を踏み出したジュビロ磐田。
プレビューで述べたとおり、磐田にとってこの一戦はただの1試合ではない。昨シーズン 4カ月間の”試用期間”を経て、クラブは名波政権後の長期展望を見据えてフベロ監督に続投を要請。
2020シーズンの開幕戦は、小野社長が語る「普及・育成からトップまで一貫」を実現するための新たなる船出となる。
試合の結果は2-0で磐田の勝利。結果だけを見れば順当な船出と言えるが、試合内容はどうであったか。
戦術面を中心に振り返るとともに、今後の展望についても触れていく。
プレビューはこちら
1.システム及びメンバー構成
■ジュビロ磐田
大方の予想どおりのスタメンと言えるだろう。
控えメンバーに目を移すとCB枠を大武が勝ち取り、かつてカカ+ロナウジーニョと評されたルリーニャがベンチから出場機会を伺う。システムは昨季から継続の4-4-2である。
■モンテディオ山形
新加入選手がどれだけ名を連ねるかが注目であった山形。
渡邊 凌磨はスタメンに選ばれたものの、ヴィニシウス アラウージョはベンチスタートで 中村 充孝はベンチ外というメンバー構成であった。
システムは今季新たに取り組んでいる3-1-4-2ではなく、昨季から継続の3-4-2-1をチョイス。
新システムの現時点での完成度を踏まえて、石丸新監督は昨季用いた3-4-2-1に勝算を見出したのかもしれない。
それでは、試合を振り返っていこう。いざいざ!
2.試合のポイント
① スピードとスピードの対決
試合開始直後の立ち上がりから、磐田はボランチの上原をDFラインに落とした3バックを形成。
山本がアンカー、SHの大森・松本がIH、SBの宮崎・小川大貴が幅取り役の3-1-4-2という配置だ。昨季終盤からお馴染みとなった攻撃時の配置変更である。
狙いはボール保持を安定させること。
そうはさせじと山形はハイプレスで対抗。スピードを伴った前線からのハイプレスで磐田の時間を奪うのが狙いだ。
山形のプレッシングの構造は下図を参照してほしい。
前線で奪えれば そのまま直線的にゴールへ、それが難しければサイドに追い込んで 磐田のSB(WB)・SH(IH)の周辺でボール奪取を目論む狙いが見て取れた。
山形はハイプレスが組織化されているため、前線の動きに合わせるようにMF・DF陣も連動してラインを押し上げる。
中盤のスペース発生を防ぎつつ相手に強いプレッシャーをかけるのが狙いだ。磐田としては細かいパスを繋ぐのが簡単ではない状況と言える。
そんな山形の「ボールを繋ぐならハイプレスで阻止するよ?」の問いに対して磐田が提示した答えは「細かいパス回しで対抗だ!」・・・ではなく、意外にもロングボールであった。
DFラインからロングボールをFWに当てる戦法だ。
山形のスピードを伴ったハイプレスに対し、中盤でボールを繋ぐ時間を省略してFWを使う磐田 という構図である。
FWにボールを届けるまでの時間的早さ(スピード)での応戦。スピードとスピードの対決だ。磐田が取ったこの戦法には2段階の狙いがあった。
1つ目はFW2枚の対人能力の高さである。ルキアン・小川航基ともに身長180cmを超す大型のセンターフォワードで、相手DFを背負ってプレーできるフィジカルの強さを持っている。
彼らの強みを活かして、DFとの1vs1を制してポストプレーから展開する狙いが一度ならず何度も見られた。
2つ目は山形DFライン裏にできる広大なスペースだ。山形の守備ブロックが下がる前に早めにFWに預けることで、DFライン裏のスペースを狙うことができる。
1つ目の狙いであるFW2枚の強さをベースに、FWからの素早い展開でDFライン裏のスペースに進入しゴールを狙う。
そして、この2段構えの狙いがいきなり功を奏す。キックオフから10分、山形のCKの崩れから小川大貴がボールを回収し、手数をかけずに前線にフィード。
小川大貴から低空のロングパスを受けたのはルキアン。
相手DFとの1vs1を制し、反転して前進を開始したところで相手DFがたまらずファウル。そのFKからの流れでCKを獲得し、CKの崩れで先制点が生まれた。ルキアンの一連のプレーはこうだ。
先制点以降も同様の狙いを続ける磐田。26分には、またもルキアンが相手DFに競り勝ちペナルティーエリアに進入。
最終的にゴールこそ奪えなかったが、得点を予感させるクロスを上げるに至った。
そして34分には、ロングパスではなかったものの、CBの藤田がサイドに流れる小川航基に楔を入れたプレーが起点となってCKを獲得。
そのセットプレーから 磐田の追加点が生まれたのである。
先制点・追加点ともにJ1昇格のキーマンである小川航基のゴールであった。東京五輪代表を目指すエースの2発!俺たちのスタァ!!
② ライン間を狙い撃つ山形
一方、山形も黙ってはいない。使い慣れた3-4-2-1を用いて、狙うは磐田守備陣のライン間だ。
プレビューでライン間に人を送り込みやすい3-1-4-2の利点を述べたが、3-4-2-1もまた同じである。
前3枚がライン間でプレーしやすく、特に”2″のシャドーは守備側が掴まえにくいポジションと言える。
山形はシステムの噛み合わせ的に狙いやすい、磐田のライン間を起点にした攻撃を立ち上がりから繰り返した。
2分・4分・15分と立て続けにFWの大槻に楔を入れ、彼のポストプレーからゴールに迫る。基本的な構造はこのとおり。
そしてこの試合の前半、山形が磐田ゴールに最も近づいたのが31分のシーン。
WBの三鬼みきがライン間で待機するシャドーの山岸に斜めの楔を入れ、山岸がダイレクトでSB裏のスペースに落とす。
磐田守備陣の目をかいくぐったシャドーの渡邊がフリーでペナルティーエリアに進入。
折り返しのパスをCB大井がカットして事なきを得たが、磐田としては非常に危険な一連の流れであった。
2対0でハーフタイムを迎え、前半の45分間は結果・内容ともに磐田の優勢という印象であったが、冷静に振り返ると山形もライン間を起点に有効な攻撃を繰り返していた。
③ 磐田が狙う もう1つのスピード
後半の山形は2点を追って前線からのハイプレスを続行。
磐田は前半同様ロングボールでルキアンを使う形を見せるものの、山形のハイプレスにボールを保持する時間が短くなり、試合のリズムを握られてしまう。
必然的に非保持の時間が長くなる磐田。
2019シーズンの終盤に磐田が見せたボール非保持の対応は、ミドル~ディフェンシブゾーンで4-4ブロックを組み、
自陣に入ってきた相手にプレッシャーをかけるというのが基本的なプランであった。
しかし、この試合では新たな一面を見せる。強度の高い2種類のプレッシングである。
1つ目は即時奪回だ。即時奪回とはネガティブトランジション(局面が攻撃から守備に切り替わる場面)において、
後方への撤退ではなくボールを奪い返すために即座にプレスをかける行為である。
実は、昨季の磐田も即時奪回を行ってはいたが、ボール保持の安定を確保することが主な目的であった(つまり、安全のためにボールを後方に戻すことが多かった)。
しかし、この試合では即時奪回から直線的にゴールを目指すプレーを披露。最も印象的だったのが65分の場面。
相手ボールになってから2秒後にSHの大森がボールを奪回し、ペナルティーエリアにラストパスを送った。山形のDFにカットされたものの、これが通れば決定機・・・という好機を演出。
即時奪回+カウンターというスピード感満載の攻撃であった。
そして2つ目がハイプレスである。前半の立ち上がりから試合の多くの時間帯で、前線からスピードを伴った積極的なプレスを敢行。
狙い通りに上手くはまったのが68分のシーン。ミドルゾーンでブロックを組んだ状態から、相手のバックパスに合わせてプレスのスイッチをON。
そのまま相手GKまでプレッシャーをかけ、ゴールまで約30mという位置でボールを奪回。
ラストパスを受けた山本のトラップが乱れたためシュートには至らなかったが、今季の新たな狙いが見て取れた一連のプレーであった。
④ 選手交代の妙で試合をクローズ
山形が試合の主導権を握りつつ、ハイプレスと即時奪回で磐田が対抗する展開が続き、スコアは2対0のまま終盤へ。
72分、磐田は運動量が落ちてきた大森に代わって山田を投入。山田はスプリンターではないが献身的な守備を行うことができる選手である。
彼の運動量で守備面を強化する意図を感じる采配であった。交代直後、磐田は相手DFラインへのプレスを緩める場面もあったが、その後すぐにハイプレスを再開。
79分、試合を動かしたい山形は渡邊に代わって南を投入。
ヴェルディユース出身で足元の技術に定評のある南の攻撃センスに託す狙いだろう。
山形はシステムこそ3-4-2-1のままだが、この時間帯から南や同じく途中出場の加藤がトップ下のポジションでプレーを始める。
4-4ブロックの磐田はトップ下を抑えることができない。
そこでフベロ監督はルキアンに代わって伊藤を投入し、システムを4-5-1に変更。上原をアンカーに据えてライン間のスペースを消すことに成功し、試合をこのまま終わらせた。
3.今後の展望
2019シーズン終盤の戦い方と比較すると、ボール保持では中盤を省略したロングボール、非保持はハイプレスや即時奪回からのカウンターという新しい戦術を見ることができた。
J1昇格のキーマンである小川航基の2ゴールで2-0の勝利。新しい船出は前途洋々!・・・と言いたいところだが、少しばかりの不安が見られたのも事実であった。
プレスを剥がされ ライン間を使われてDFラインで1vs2を作られた場面や、即時奪回を狙ってSBの宮崎が高い位置までプレスに行った後に不在となった、
左サイドのスペースからボールを運ばれた場面などは今後改善すべき課題と言える。
山形が前半から狙ったライン間を起点にした攻撃への対応も同様だ。
その他にも心配事はある。ハイプレスや即時奪回は体力を消耗する。特に中盤から前線にかかる負担は大きいだろう。
試合を重ねるうちに疲労度が増してくるだろうし、筋肉系のトラブルを引き起こさないか気になるところだ。
新型コロナウィルスの影響もあって過密日程となるJ2リーグ。
スコアラーとしてもプレス要員としても替えの利かない存在となった小川航基に大きなトラブルが起きたら・・・と案じずにはいられない。
「不安だらけじゃねーか!」とツッコミが聞こえてきそうだが、筆者の Juberoフベロ Iwata に対する期待はもちろん大きい。
ハイプレスにしても即時奪回にしても試合を重ねることで練度は増していくと期待している。
なお、磐田の戦術面に関して「①スピードとスピードの対決」「③磐田が狙う もう1つのスピード」の内容から今季はボール保持を放棄したと感じるかもしれないが、それは否定しておきたい。
上原を落とした3バック化はボール保持のための手段であり、相手を押し込んだ後は昨季同様にロジカルな崩しを何度も見せていたことを記しておく。
試合情報
磐田 2 – 0 山形(2-0 , 0-0)
主審:村上 伸次 副審:蒲澤 淳一・竹長 泰彦 4th:清水 修平
入場者数:14,526人
天候:晴
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