名前はむずかしい
「どうした」
「今日は選手名の発音などについて語って行きたいと思う」
「相変わらず唐突やな」
「それというのも、ハインツェのせいなんや」
「日本でも有名な選手やな」
「バジャドリーで城と一緒やったしな」
「彼がどないしたんや」
「彼はアルファベットで書くとHeinzeやろ」
「そうやな」
「明らかにドイツ名なわけだから、カタカナにするとハインツェなわけや」
「eiの発音はアイに近いからな」
「それはシュヴァインシュタイガーのつづりが、Schweinsteigerであることを見てもわかる」
「何も一番長い人を持ってこんでもええがな」
「おまけにスペインのアナウンサーもハインツェのような発音で呼んでいる」
「まあそう聞こえんこともないな」
「ところがある日、ガブリエル・ハインツェで検索すると”ガブリエル・エインセ”という文字が一番上に出たわけや」
「エインセか」
「一瞬何のことかと思うやろ」
「Heinzeを真面目にスペイン語で読むと、最初のHを発音しないで最後で舌を噛むから、確かにエインセではあるな」
「それを見て実はスペイン人もエインセと呼んでいて、自分が空耳的にハィンツェと聞いていたのではないかと不安になったわけや」
「言語は音も予想で聞くから思い込みがあると空耳は起こりやすいしな」
「外国語でいちど字幕を見てしまうと”寿司、鳥、風呂、寝ろ”としか聞こえなくなるのと一緒の原理やな」
「何の話や」
「そこで実際にアナウンサーの声を真面目に聞いてみた」
「マメやな」
「それがこれでエル・カベサッソ・デ・*****と言っていて、星の部分が選手の名前になっている」
「ふむ」
「どう聞こえる」
「ヘインツェかな」
「最初の音は間違いなく”エ”じゃないやろ」
「スペイン語の”Je”で”ヘ”と表記する発音に近い気がする」
「最後の音は少し破裂するような音になるから”ヘインツェ”というのが日本語では一番なじみやすい発音での表記ではないかと思うわけや」
「まあこの辺の発音に関しては色々あるけどな」
「まあな」
「例えば最近有名なボージャン何かもそうやろ」
「Bojanか」
「これはボージャンと読んで、カステジャーノ風にボーハンとは読まんやろ」
「Borjaはボルハなのにな」
「”Bojan”がボージャンで”Borja”がボルハというのはいかさまみたいなもんやな」
「そうは言ってもカタルーニャ方面の選手に対して”J”行の音をハ行ではなく、J行で読むことは多いな」
「JordiやJofreなんかがそうでジョルディ、ジョフレやな」
「おまけにビジャレアルの監督のPellegriniは”ペレグリーニ”であって”ペジェグリーニ”や”ペリェグリーニ”とは呼ばない」
「有名なPaellaはパエリアとか、パエーリャとか、パエージャとかやな」
「これは先祖の具合が関係していて、Pellegriniはイタリア系で”ペリェグリーニ”と呼ばれると自分の気がしないからだろうし、
Bojanも”ボーハン”と呼ばれては自分の気がしないだろうから、もとの言語になるべく近い音で呼んでいるやと思うで」
「つまりドイツ系のHeinzeも実はハインツェと呼びたいという話やな」
「ちなみにボージャンの苗字のKrkicも”クルキッチ”で、最後は”ク”じゃなくてセルビア風に”チ”やな」
「単純にカステジャーノ読みすればいいというものではないだけに面倒やな」
「同じアルファベットで違うように読めというのは実に難儀な話やな」
「そういえばやな」
「なんや」
「上のエインセという表記よりも納得の行かない選手が一人いてだな」
「誰や」
「メシなんやな」
「メシか」
「メッシならともかく、メッシーはないと思わんかね」
「どうやろな」
「とりあえず音を聞いてみてくれ」
「うむ」
「どうや」
「メシーかメシやな」
「最初にメシーとなっているのは語尾で調子を取るためやし、どう聞いてもメッシーにはならんやろ」
「まあアルゼンチン風に発音するとメェシィに近くなるけどな」
「そこまで行くともはや収集がつかんけどな」
「そんなことを言うたら、ベティスのEduなんかもっと大変やで」
「彼がどうした」
「Eduを何と読む」
「エドゥーやろ」
「ところが違うねん」
「そんなアホな」
「本人が言うから間違いない」
「だって前にフリューゲルスにいた選手もEduでエドゥーやったやろ」
「懐かしいな」
「鬼のフリーキッカーで、センターサークルのすぐ前くらいから直接決めてたな」
「いやそんな昔話はおいておいてだ」
「うむ」
「本人に言わせるとエドゥーじゃなくて、エ↑ドゥらしいんや」
「エにアクセントがあるのか」
「エで上がって後ろで落ちるのが本当やから、エドゥーとは呼んで欲しくないそうなんやなこれが」
「また微妙な注文やな」
「それでアナウンサーも一時期はエ↑ドゥと呼んでいたんやけどや」
「どうした」
「2週間程度前の音声を聞いて欲しいんや」
「うーむ」
「うーむやろ」
「どう聞いてもエドゥーやな」
「もとに戻ってしまったということや」
「きっとエ↑ドゥやとスペイン語のリズムに合わんのやろな」
「何にせよ名前の呼び方は、かくも非常に難しいといわけやな」
「とはいえエインセやメッシーなどの、明らかに違う表記は修整したほうがいいのではないかというところで」
「今回はこの辺で」
「また次回」