オランダ 4-1 フランス
監督 レイモン・ドメネク
フォーメーション 1-4-4-2
「まさに」
「とにかくこの試合は、結果より何よりオランダの交代が注目を集めた」
「先発はこう」
「オランダはイタリア戦と同じ」
「フランスは右にゴブ、前線にアンリとリベリー、左サイドバックにエブラ」
「これでフランスにボールを前に運ぶ構造ができた」
「下の形やな」
「鍵は左のエブラと、前方やや左に入ったリベリーでマルダを含めた3人でボールを前に運ぶ」
「その後、リベリのドリブルやそこからの展開やらで相手を崩すわけやな」
「これで前回の脳波停止状態サッカーから脱却を図った」
「つなげないアビダルを外したのはポイントやな」
「まあ、昔のジダンの代わりにリベリを入れたと言えなくもない」
「確かに以前ジダンが果たしていた役割を、リベリが担っているわな」
「試合はというと、前半9分にいきなりオランダが先制」
「コーナーキックからカイトが決めた」
「その後は追うフランスがオランダゴールを目指した」
「例えばリベリーのこのような(※リンク切れ)プレーやな」
「前半は1-0で終わり後半に入る」
「はたして両監督がどう動いてくるかと思っていると」
「オランダのファン・バステンが先に動いた」
「後半の開始からエンヘラールを下げてロベンを入れた」
「実はフランスもアンリとリベリーの位置を入れ替えているが、それをかすませるオランダの交代やな」
「ロベンが左前に入り、ファン・デル・ファールトが左のボランチのような位置に入る」
「うむ」
「これはすごい」
「まさに」
「ファン・デル・ファールトがその位置に入っても体を寄せていけないからボールを取ることは難しく、おまけに高さもないからハイボールにも弱い」
「例えばトゥラランがドリブルで仕掛けてきても、とてもじゃないけど奪うことができない」
「ロベンが下がっても守備に効かないことを考えると、オランダの中盤はすっ通しになった」
「フランスとしてはボールを前に運ぶ構造も、何も考える必要はなく前に行ける状態だった」
「まさに叩き合いというに相応しい状況やな」
「そして53分にフランスはチャンスを迎える」
「ラインの裏に抜け出したアンリがキーパーと完全な1対1」
「しかしループシュートはバーを越える」
「ビデオはこちら(※リンク切れ)」
「55分にオランダが再び交代」
「少しは守備を固めるかと思いきや」
「カイトに代えてファン・ペルシ」
「またもフォワードというか、ウィングが出てきた」
「この意味は簡単やな」
「中盤は空いておりますのでご自由にお通り下さい。ただしそちらも後ろががらがらになるので、そこから反撃させていただきますということか」
「ファン・デル・ファールトが中盤の下にいるのも、ここでボールをキープして長いパスを出せた方がカウンターに都合が良いからであるな」
「その意味は簡単やけど、やってることはものすごい」
「まあこれをやると、反撃できるとは言っても相手に先に殴られるからな」
「そこで同点に追いつかれると、一気に試合がひっくりかえる可能性は高い」
「それでもあえてこれをやると」
「一種の博打だが結果は大当たりで、オランダは次々と追加点を奪った」
「これや(※リンク切れ)、これや(※リンク切れ)、これやな(※リンク切れ)」
「オランダはイタリア戦に引き続き、再びカウンターの切れ味の恐ろしさを見せつけた」
「しかしこの交代は、ファン・バステンという人でしかできない」
「そうかもわからん」
「メリット、デメリットが極端やからな」
「メリットはカウンターで点を奪う可能性が増すことと、同点に追いつかれた後も反撃の糸口を残してることやな」
「デメリットは相手に先に攻められて失点する可能性が飛躍的に増すこと、追いつかれると、相手を勢いに乗せてしまうことやな」
「普通これは悪く出るのが怖くてできない」
「よほどの性格の人しかできんな」
「この日のオランダの交代はこう」
「上半分から下半分に変化した」
「男らしく切り合いましょうという手やな」
「対してフランスの交代はこう」
「型どおりといえば型どおりやな」
「例えば上の交代以外で勝負にいくとして、トゥラランかマケレレを外してそこにリベリーなどを置くこともできる」
「監督が非常に慎重な性格だけにそうはしない」
「例えばルーマニア戦でも、本当に慎重な采配を見せた」
「今のイタリア監督も、そういう性格であるな」
「第一戦では下のような交代だった」
「ここで大事なのは、代わった選手より代わらなかった選手の方やな」
「特に中盤のガットゥーゾ、アンブロジーニを代えなかったことが注目点になる」
「その時、イタリアはオランダに負けていて、例えばガットゥウーゾをパスをつなげる選手に代えることは、ごく自然な発想だった」
「それを敢えてしないということは、イタリア監督のドナドニは中盤の守備の信奉者であり、こっちがバランスを崩さなければ相手がバランスを崩し、カウンターとロングボールでいずれ点が入るという考えの持ち主であることがわかる」
「ところがこの日の先発と交代はこう」
「これは、バランスとカウンターとロングボールの信者とは思えない布陣になっている」
「きっと散々非難を浴びたことが影響したんやな」
「しかしこれは良くない」
「そうかね」
「方針というのは、それを決める人が自信を持って指示するとしないとでは、同じ言葉で伝えても影響力がまるで違う。
監督の信念を外圧で変えたとすると、たとえそれが理屈としてより良い方針であったとしても、チームにとってマイナスになる」
「誰もがファン・バステンになれるわけではないということかね」
「フランスのドメネクやイタリアのドナドニに同じよう、前に出ろといってもどだい無理な話やで」
「マドリー時代のカペッロはどんなに批判されても、ディアラとエメルソンを先発させてグティを控えで使い続けたし、後任のシュスターは中盤の守備のバランスがおかしいときでも、ガゴを使い続けたようなもんか」
「その例えはかえってわかりにくくないか」
「そうか?」
「まあ何にしても監督というのは信念と共に心中するしかない存在で、たとえどんなに状況に即して正しい戦術であっても、それを自信を持って指示できないようであれば別の方策を取った方が良い」
「ファン・バステンの交代を攻撃サッカーやらスペクタクルとして賞賛するのは簡単やけど、それを他の人間が単純に真似したり他の人間に押し付けたりすると、とんでもないことになるわけやな」
「現実問題として、ファン・バステンのような交代は表が出ている内はいいけど、一つ裏目に出るとえらいことになる」
「相手に先に点を取られた時の話か」
「そこでどうなるかというのは、非常に興味がある」
「なんにしてもリスクのある交代を堂々と指示できることが、世界一のフォワードと呼ばれた人の凄みなわけやな」
「それはそうやけど、負けたら終わりのトーナメントに入っても同じことをやるのかどうかは注目やと思うで」
「それはあるな」
「そんなこんなで」
「また次回」
「日本から上のビデオが見られるかどうか、教えていただければ幸いというところで」
「今回はこの辺で」
「ご機嫌よう」
参考:ルーマニアの交代