スペインの4バックについて
データはすべてUEFA(※リンク切れ)による。
まずスペインの4バックのフィードの正確性について及第点とは言い難い、という主張について検討する。
フィードとは一般的に、ディフェンスラインなどから長い距離を経て供給されるパスを指す。
UEFAのデータベースにはフィードという項目はない。
よってここではロングパスの精度について調べることで代用する。
フィードの精度とロングパスの精度の間には十分な相関があると考えられる。
スペインのデータは以下のようになる。
成功率、本数ともにセルヒオ・ラモスがトップである。
以下、マルチェナ、カプデビラ、プジョルと続く。
表中のプジョールは文中のプジョルにあたる。
トップのセルヒオ・ラモスと最下位のプジョルの間には、
成功率で14%、90分あたりの本数で5本以上の開きがある。
このデータからは4人をひとくくりにして、”スペインの4バックはフィードの正確性について及第点とは言い難い”との主張するのは無理であることがわかる。
このデータを他の国と比較する。
ベスト4、すなわち準決勝に残った国と比較する。
平均成功率は58%、90分あたりの平均本数は7.39本である。
プジョルを除くセルヒオ・ラモス、マルチェナ、カプデビラの3名は平均以上の数値を残している。
ここからスペインの4バックのフィードが及第点以下であることを読み取ることはできない。
特にセルヒオ・ラモスは成功率において、2位の成績を残している。
及第点以上だといえる。
上の表を90分あたりのロングパス数で並べ変える。
セルヒオ・ラモスは再び2位である。
成功率、本数ともに十分の成績を残している。
話をセンターバックのみに限る。
ここでもマルチェナは平均以上であり、プジョルは平均以下である。
以上のデータから言えることは、スペインのディフェンスでロングパスについて、平均以下の数値を残した選手はプジョルだけであるということである。
ユーロ全体でのロングパス成功率を概観するため表2に選手を付け加える。
スペインに不利になるように、ロングパス成功率を向上させるであろう国を選ぶ。
イタリア、ルーマニア、ポルトガル、フランス、オランダである。
イタリアはプレースタイル的にフィードを得意とする選手が多い。
ルーマニアは歴史的にテクニカルなディフェンスを輩出している。
ポルトガルにはペペ、カルバーリョという世界を代表する選手がいる。
フランスは近年質の高いディフェンダーを輩出している。
オランダはポゼッションサッカーを指向する国だけに、一般的にディフェンスのパス能力が高い。
以上のような理由から、パス成功率が向上すると期待される。
結果は文末の表5のようになる。
平均は成功率60%、90分あたりの本数7.91本となる。
ベスト4の平均は成功率58%、90分あたりの本数7.39本である。
上記の国を加えたことで成功率、本数ともに向上している。
スペイン守備陣の平均成功率は62%、7.81本である。
成功率において、全体平均を上回り本数において劣る。
このデータからも、”スペインの4バックはフィードにおいて及第点以下である”という結論を導くことはできない。
スペインが及第点以下なら、このユーロにおけるディフェンスのフィードが及第点以下ということになる。
そうであるならば、それを主張すべきであるし、その証拠を提示すべきである。
またフィードとロングパスの精度に相関がないというのであれば、その理由も重要になる。
スペインの4バックのフィードが及第点以下であるという事実は、データから知ることはできない。
それにも関わらずそのように主張するのであれば、何らかの確固たる事実をもって証明すべきである。
引き続き、”スペインの4バックは凡庸である”という点について考察する。
まずセルヒオ・ラモスについては上記のロングパスの成功率、本数のデータからその点について凡庸ではないことが示されている。
またルカ・トニとの競り合いに勝利している。
イタリア戦後半だけでいえば45分25秒のプレー、81分53秒のプレーがそうである。
ルカ・トニと競り合って勝てるサイドバックがどれほどいるのであろうか。
これだけでなく攻撃においても活躍している。
一例として、準決勝のロシア戦のパスデータはそれを裏付けている。
1対1に関して、セルヒオ・ラモスに及第点がつけられないという点にも疑問が残る。
良くない形で抜かれたのは緒戦のロシア戦での対ジルコフ、イタリア戦でのカッサーノの2人である。
もしこれを問題にするならば、ジルコフとカッサーノが1対1において平均的な選手であると証明した後でなければならない。
セルヒオ・ラモスを”凡庸”の一言で片付けるのは、あまりにも問題が多い。
逆サイドのカプデビラについて見た場合、これも凡庸の一言で片付けることはできない。
パスがぶれない選手であるということはこちらで述べた。
その点について、データを詳しく見る。
以前に出した数値で、カプデビラのパスはタッチ数が少なく、ぶれがないという特徴があった。
そのようなパスで、タイミングよく動かす場合、ショートパスが多くなる。
よってショートパスにおけるデータを検証する。
ベスト8、すなわち準々決勝に残ったチームの左サイドバック8名について、そのショートパス成功率を見る。
一位はフィリップ・ラームであり、二位はカプデビラである。
カプデビラは、上述の中では平均以上である。
次にミドル、ロングを含めたパス成功率を見る。
一位はパウロ・フェレイラであり、二位はカプデビラである。
パスにおいてカプデビラを凡庸な選手であると言うならば、このユーロは少なくとも準々決勝以降、左サイドバックはその点において、凡庸以下の選手で構成されていたと言わざるをえない。
以上のように、このユーロでは少なくともスペインの両サイドバックを凡庸もしくは、平均以下とするのはデータ上無理がある。
スペインのセンターバック論については、別の機会に譲りたい。
この文章の生データはこちらを参照されたい。
*注:”またカプデビラは一般的に、攻撃面よりも守備面を評価されている選手であることを思い起こされたい”という文は一般論の援用にあたるため削除しました。