スペインのサイドハーフについて 正しいか誤りか
前略
検証をお願いしたい記事があります。
www.bunshun.co.jp/mag/numberplus/index.htm(※リンク切れ)
の「核心はサイドハーフにあり」という記事です。筆者は杉山茂樹氏ですが、恐ろしいほどの4-2-3-1信奉者で「サイドを制するものは試合を制す」という言葉が必ずあるほどです。
要点としては、今大会はどちらのサイドハーフが活躍するかが試合の趨勢を握っていたということのようですが、いまいち合点がいきません。相手のミスを突いたものやカウンターで決めたものもあります。
それに同記事では、準決勝ロシア戦での交代をこう評しています。
「何より攻撃に流動性が生まれた。攻撃の幅が保たれたことで逆に中央にスペースができ、ロシア選手が敷く守備網も自ずと広がった。間隙を突きやすい状態になったのだ。
流動的なサッカーを目指しても、幅の設定を怠ると逆に流動性は低下する。それをせずに自由に動き回れば、選手は中央に乱立しやすいのだ」
確かに一部分当たっている面もありますが、そもそもロシア戦では最初からロシア守備陣は崩壊しており、このような説明が妥当するとは思えません、
http://news.livedoor.com/article/detail/3686054/
http://news.livedoor.com/article/detail/3680685/
http://news.livedoor.com/article/detail/3706592/
http://news.livedoor.com/article/detail/3712379/
主な記事の内容は現地観戦記をまとめたものですから、この上に挙げた記事を抽象化したものと考えて差し支えありません。
後略
— 引用ここまで —
実際の雑誌の記事を読むことはできないので、上のWEBページから疑問にあるサイドハーフにかかわる部分を引用する。
— ロシア戦に関する文章の引用ここから —
http://news.livedoor.com/article/detail/3706592/
それが一転したのは前半37分。ビジャが故障で退場したことがきっかけだった。代わって投入されたのはセスク・ファブレガス。中盤が4人から5人に増え中盤乱立の傾向に、いっそう拍車が掛かるものと思われた。
驚いたのは、それがそうならなかったことだ。中盤はむしろワイドに広がった。
セスク・ファブレガスが交代する相手はこれまで決まってチャビだった。4人という中盤の人数には変更がなかった。それがロシア戦では5人になった。
両サイドハーフのイニエスタとシルバは中盤選手が3人もいる真ん中に入っては、さすがに具合が悪いとのだろうか、それまでとは異なりサイドのポジションを維持しようとした。
サイドハーフ同士でポジションチェンジは行ったが、真ん中に入ることを避けるようになった。
つまり5人の中盤はピッチに綺麗に広がった。必然、幅が保てるようになったので中にもスペースが生まれた。ロシア選手の間隙を突く流動性も生まれた。
— ロシア戦に関する文章の引用ここまで —
これを概念図で表すと次のようになる。
セスクの投入前は下図のようである。
これがサイドの中盤が中央に寄った場合である。
サイドが中に入ることで、ディフェンスを中央に寄せてしまう。
その結果、中のスペースが狭くなりパスを通す空隙もなくなり前線が動くスペースもなくなる。
http://news.livedoor.com/article/detail/3686054/
においても、1-4-2-2-1-1という形で同様の指摘がなされている。
これに対し、セスクが入った後の概念図は下のようになる。
図中のファブレガスは、セスクと同一人物である。
シルバ、イニエスタが両サイドに開き守備陣がサイドに引っ張られる。
その結果として中央が空き、そこにパスが通りやすくなる。
またそれを受ける選手も動きやすくなる。
ロシア戦では34分にビジャが負傷し、セスク・ファブレガスと代わる。
(引用文中では37分となっているがUEFAには34分と記されており実際にも34分である)
この際に最初の図から二番目の図にいたる変化が起き、それに伴いスペインの攻撃が上手くいくようになったというロジックだと理解される。
次にドイツ戦に関する記事を引用する。
— ドイツ戦に関する文章引用ここから —
http://news.livedoor.com/article/detail/3712379/
しかし、スペインに対する心配は杞憂に終わった。4-1-「4」-1の布陣を敷くスペインは準決勝同様、サイドハーフがキチッと幅を保つべきポジショニングに徹したのだ。だから真ん中が空いた。逆にそこにスペースが生まれた。
決勝ゴールはその産物と言える。
— ドイツ戦に関する文章引用ここまで —
これは上で述べたセスク投入後の図にあるようにサイドの選手が横に開き、そのことが決勝点を生んだと理解される。
以上を受け下の3点を検証する
・ロシア戦のセスク投入後、サイドハーフのイニエスタとシルバは横に開いたか
・開いたことにより中央にスペースが生まれたか
・決勝、ドイツ戦の得点はサイドハーフが横に開いた結果か
まず「ロシア戦のセスク投入後、サイドハーフのイニエスタとシルバは横に開いたか」とう点について検証する。
ビジャが退場しセスクが投入されたのが34分であり、スペインの得点は50分に生まれた。
その間の16分間について、スペインがボールを保持している場合のサイドハーフの位置を確認する。
実際には前半のロスタイム1分を含むため17分間である。
この間に限る理由は、スペインがリードした後はロシアが前に出る。
このため、それ以前とは試合の様相が異なるためである。
以下の図の左上の数字は時間を表す。
36:23は36分23秒を意味する。
名前の長い選手は最初の3文字で表す。イニエはイニエスタであり、カプデはカプデビラである。
スペインは前半、左から右に攻めている。
上はセスクが中央でボールを持っている。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。
上はシャビが自陣でパスを出した瞬間である。
シルバはセスクと重なる位置におり、サイドに開いていない。
上はセスクがパスを出した瞬間である。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。
上はセナがパスを出した瞬間である。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。
上はセスクがサイドに流れてボールを受けた状態である。
シルバは中央でイニエスタと重なっている。
上はシャビがボールを保持している。
イニエスタは中央におり、サイドに開いていない。
上は二つ上の図の続きである。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。
上はシャビがボールを保持している。
イニエスタは中央におり、サイドに開いていない。
上は二つ上の図の続きであり、シルバがボールを保持している。
シルバイニエスタともに中央におり、サイドに開いていない。
上はセスクがボールを保持している。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。
次の図から後半に入る。
スペインは右から左に攻めている。
上はセナがボールを保持している。
シルバは中央におり、サイドに開いていない。
上はセスクがボールを保持している。
イニエスタは中央におり、サイドに開いていない。
以上のようにサイドハーフが中央に位置する状態が数多く見られる。
「ロシア戦のセスク投入後、サイドハーフのイニエスタとシルバは横に開いたか」という問に対しては否と答えざるを得ない。
またそれは、得点シーンにもよく表れている。
スペインは右から左に攻めている。
上の図でセナからシャビにパスが出る。
上の図はシャビがボールを受けた瞬間である。
一番外側の中盤を基準に線を引くと下のようになる。
シルバ、イニエスタは中央に寄り、セスクも中央に寄っている。
中盤より前の6人が、中央の非常に狭いスペースに密集していることがよくわかる。
ここからイニエスタが外に開く。
この後、イニエスタが前方にドリブルし、内側への切り返しから中央のシャビに送ってゴールが決まる。
スペースの出来方としては中央に選手を集める、サイドが空く、サイドにボールを送る、中央が空くという流れになる。
これはサイドに開く、中央が空く、中央にボールを送るという流れとは逆である。
スペインがボールを保持しいている場合に、シルバとイニエスタがサイドに開いているシーンには下の3つがある。
(45分とあるが、実際には前半のロスタイム1分12秒。後半と混同しないため45分と表記する。)
しかしここからチャンスになった事例はない。
以上のことからロシア戦のセスク投入後、サイドハーフのイニエスタとシルバは横に開いていなかった。むしろ中央に寄る場面が多かったことがわかる。
「中盤はむしろワイドに広がった。」という表現は誤りである。
「開いたことにより中央にスペースが生まれたか」という問に対しても否と答えざるを得ない。
次に「決勝、ドイツ戦の得点はサイドハーフが横に開いた結果か」という点について考える。
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