ビジャレアル対ベティス 交代による具体的な変化例
2008-2009シーズンの第6節、ビジャレアル対ベティス戦においてペレグリーニはギジェを前線にピレスを左に入れ、イバガサを中央に移動させる交代を行った。
先発
58分:
その理由と効果はビジャレアルの2点目に見られる。
以下にその詳細を見る。
自陣でボールを持ったイバガサは、正面の相手に対してドリブルを行う。
次に左を向きそちらにパスを出すそぶりを見せる。
この結果、前方の守備者はその方向に移動する。
イバガサは逆に右へと切り返す。
下の図で守備者が上方、イバガサから見て左側にずれていることがわかる。
守備者をずらして作り出したスペースにパスを通す。
相手を逆に動かしたため、より縦方向へパスを出すことができる。
またサイドに出すフェイントをかけているため、その方向へ相手選手がつられている。
イバガサの一つのパスで、次の上から下の状況に変化した。
組み立てでボールを前に運ぶという意味において、非常に優れている。
このプレーを行うためには相手と正対する技術、右にパスを通すために左に相手を釣るアイディア、切り返しからパスまでの動作の素早さ、サイドへのフェイクから縦に出す技術、正確なパスの角度と強さというものが重要になる。
特に最後のパスの角度と強さを正確にする技術、パスタッチの良し悪しと呼ばれるものは選手により差が大きい。
パスの下手な選手は広角に強く出してしまい、受け手に合わない場合が多い。
広角に出すのは前の選手によるパスカットを恐れるためであり、強く出すのは感覚の欠如であることが多い。
この試合、ビジャレアルはセナをイバガサに置き換えた。
先発
58分:
イバガサは特に最後のパスタッチの部分で、セナよりも優れている。
このため上のような組み立てにおいて良くなる場面が増える。
イバガサのパスを受けたジョレンテは、中央のピレスにパスを送る。
ピレスは前方へドリブル。
赤いパスフェイクの後、後ろに切り返す。
下の図を見ると、正面にいた2人のディフェンダーの距離が縮んでいるのがわかる。
その2人は横に動いたため、後ろに動くピレスを追うことができない。
もしパスフェイクを入れなければ、一人の守備者が前に出て後ろからプレッシャーを受けることになる。
距離をとった後、右サイドに切り返す。
次に赤いパスフェイクを入れてサイドにパスを出す。
パスフェイクは一番外側の守備者を中央に引き付け、サイドへ出るのを遅らせるためである。
ここで画面下からサイドバックのアンヘルがフォローに来る。
ピレスは中央でボールをキープすることで、その時間を作り出した。
以上の流れにおいてピレスはキープとパスフェイクでスペースを生み出し、それを自分、もしくはパスによって利用している。
「ピレスはボールキープでスペースを作り、それを利用するのが上手い」という言葉の具体例である。
ボールを受けたアンヘルは相手と正対することで、縦方向へ突破するためのスペースと中央方向へのパスコースを確保する。
ここではワンツーで縦に抜け出すことで、前のスペースを利用した。
相手と正面から向かい合うことで、突破用のスペースを確保することは非常に大切である。
これができない例は下のようになる。
濃い芝と薄い芝の境目を縦に移動しており、全く相手と正対していないことがわかる。
また2枚目と3枚目を見比べると、わずかながら外に逃げている。
このようなプレーは守備にとって全く恐くない。
ここでは下のように一度ディフェンス方向へドリブルをして後ろに下げ、その後に縦に行く方が良い。
このような形で相手に向かうプレーというのは、残念ながら多くの日本選手に不足している。(参考) ※リンク切れ
上の選手はネルソンである。彼はベンフィカ時代、ビジャレアルと対戦した。その時は上のような逃げるがごとき行動は見られなかった。むしろ一番近いディフェンダーへ差し組むように仕掛け、左右どちらにでも抜くことができた。
そのような向かっていく気持ちを失っていることは、非常に残念である。
ワンツーで縦に抜けたアンヘルがクロスを送る。
空中での競り合いの後、エリア内にこぼれる。
それをイバガサが回収し、ドリブルで前へ運ぶ。
イバガサがこの地点に到達しているのは、ピレスのボールキープにより時間が生まれたことが大きい。
このプレーもセナをイバガサに代えた効果が出ている。
セナはイバガサほど狭いスペースのドリブルが上手くなく、おそらくトラップからのシュートを選択したと考えられる。
またこの試合のセナとイバガサでは、ポジショニング自体異なる。
前半、セナとエグレンの2人は、ほぼ常にボールの後ろに位置していた。
しかし後半、イバガサはボールよりも前に位置し、上のようにペナルティーエリア前後でもプレーしていた。
ドリブルで抜けたイバガサがファーへクロスを上げる。
ピレスがボレーをミス、それをジョレンテが決める。
この場面でギジェ・フランコは、キーパーのバランスを崩す役割を果たしている。
最後の図においてボレーの瞬間、キーパーは片足立ちになっている。
これは最悪の体勢に近く、次のプレーに対応できない。
ギジェは熱い魂、競り合いを恐れない、泥臭いといった形で語られるがここでもそれらが見られる。
以上のように、この得点においてイバガサの組み立て能力とペナルティーエリア近くでプレーする能力、ピレスのボールキープから時間とスペースを作り出す能力が決定的な役割を果たしている。
前半の配置では、このような場面は生まれない。
サッカーでは個々の選手の良い面が組み合わさった時に点が生まれることが多く、逆にそうでなければ生まれることは少ない。
選手をその長所が活きる場所で使い、また組み合わせとしてより力を発揮する配置、動きにすることは重要である。
ペレグリーノは、それぞれの持つベクトルを組み合わせてチームを一つの方向へ導く術に長けている。