ドイツワールドカップ 日本代表まとめ
日本代表はドイツワールドカップ2006において、1分2敗の成績によりグループリーグで姿を消した。
この時、3試合で2得点7失点の記録を残した。
これは参加32チーム中、得点は下から4番目、失点は下から3番目にあたる。
ともに低い順位であるが、この稿では特に得点面について考える。
シュート数に関する考察
日本の2得点を下回るチームは1得点のアンゴラとトーゴ、0得点のトリニダード・トバゴがある。
以下に日本を含めた4チームについてボール保持率、シュート数、枠内シュート数のデータを比較する。
ボール保持率は1試合平均、シュート数、枠内シュート数はグループリーグ3試合の合計である。
表1:ボール支配率順
表2:シュート数順
表3:枠内シュート数順
以上のように日本はボール保持率で1位、合計シュート数で2位、枠内シュート数で3位になっている。
このことはボールキープがシュート、特に枠内シュートにつながらないことを示唆している。
攻撃に関する考察
枠内シュートはゴールに近づけば近づくほど増える。
枠内シュートが少ないというデータは、日本代表が相手ゴールに近づけなかったことを示唆している。
その理由を探るために以下のプレーデータを分析する。
・カウンター
・スルーパス
・サイドでの縦突破
・サイドから中央に切れ込んでのシュート
・個人技での中央突破
・ミドルシュート(PKエリア外からのシュート)
日本のシュートに関するプレーは、ほぼこの6種類に収まる。
スルーパス、サイドでの縦突破、サイドから中央に切れ込んでのシュートについては、それぞれの図を参照されたい。
カウンターに関する考察
日本のカウンターに関するプレーは表4のようになる。
行頭のAはオーストラリア戦を、Bはブラジル戦 を、C戦はクロアチアを表しており、その後の数字は時間を表している。
A09m48sはオーストラリア戦の9分48秒のプレーを指す。
表4:カウンター
時間 / 選手 / 場所 / 結果 / 評価
ここではロングパスが失敗したカウンターや、選手が途中でスピードを緩めたカウンターは加味していない。
3試合で16回行われており、このうちミスで終わったものが14回ある。
カウンターが失敗する原因としてはチームとしての習熟不足と、選手の能力不足が考えられる。
日本の場合は明らかに後者であり、カウンターのチャンスは十分にありながら自らのミスでそれを摘んでいる。
また16回のカウンターのうち、ペナルティーエリア内に進入したのは2回であり、シュートにつながったプレーは1回しかない。
これは選手のカウンター能力の低さを反映している。
カウンターは現在のサッカーにおいてセットプレーと並ぶ得点源である。そのプレーでミスが多いというのは、日本サッカーの問題といえる。
中村、高原という海外でプレーする選手もスピードを上げた状態でのミスが多く、この点については若年層からの改善が必要である。
スルーパスに関する考察
日本のスルーパスに関しては表5のようになる。
表5:スルーパス
時間 / 選手 / パスの送り先 / 結果
9回のプレーのうちスルーパスを受けた選手は玉田が4回、加地が3回、柳沢が1回、中田が1回となっている。
監督が主に起用したフォワードの高原と柳沢は1度しかパスを受けていない。
このデータで注目すべき点は、クロアチア戦での玉田の動きである。
64分に柳沢と交代して試合終了までに3回のスルーパスを受けている。
単純な選手交代によりこれだけ増えるという事実は、柳沢と高原の組み合わせで縦への動きが足りなかったことを強く示唆している。
また、中盤の選手がボールを受けた場面は1回しかない。これは中盤からの飛び出しが不足していたことを示唆している。このため中田、中村、小笠原とパスを得意とする選手を揃えながら、それを十分にいかすことはできなかった。
サイドでの縦への突破に関する考察
日本のサイドでの縦への突破に関しては表6のようになる。
表6:サイドでの縦突破
時間 / 選手 / 結果
3試合で6回のプレーがあり、サイドバックのプレーが5回を占める。
アタッキングゾーンでボールを持つ回数が少ないサイドバックが8割以上を占めており、裏を返せば日本のフォワード、ミッドフィールダーが縦への勝負を避けていることを示唆している。
この原因の1つとして、心理的なものが考えられる。
サイドバックは守備が本職であるため、攻撃で失敗しても非難が少ない。一方、フォワードが失敗すると非難は大きい。
この事がフォワードや攻撃的な中盤の選手から積極性を奪っていると推測される。
また技術的な点では、サントスを除く選手のプレーは、最初の段階でゴール方向へ進んでから縦に抜けている点で共通している。
これはゴールに体を向けてボールを持つ重要性を表している。
サイドから中央に切れ込んでのシュートに関する考察
具体的には図のような状況を指している。
表7:切れ込んでのシュート
時間 / 選手 / 結果
- - -
このようなプレーは3試合を通して一度もなかった。
サイドでの縦への突破に関するデータと合わせて見ると、フォワードやミッドフィールダーはサイドで縦へ突破することもなければ、中央へ切れ込んでシュートを打つこともないことがわかる。
これはボールキープのためにボールキープを行っていることを反映しており、プレーのベクトルがゴールへ向かっていないことを示唆している。
中央突破に関する考察
日本の中央突破に関しては表8のようになる。
表8:個人技での中央突破
時間 / 選手 / 結果
柳沢がオーストラリア戦で唯一のプレーを見せている。
個人技での中央突破は最も難易度の高いプレーであり、これを成功させた柳沢の能力を物語っている。
ただしシュートは完全なミスキックであり、枠はおろかキーパーエリアを捉えることすらできなかった。
ミドルシュートに関する考察
日本のミドルシュートに関しては表9のようになる。
フレームという項目は、立ち足が接地してから振り足がボールに触るまでのビデオフレーム数を表している。
表9:ミドルシュート
18本中13本がミスか枠外で終わっている。これは改善を要する数字である。
改善点の1つとして、立ち足の接地からシュートまでの時間の短縮が考えられる。
この点を考察するため、表9のフレームを秒に換算する。
PAL方式の1秒間のビデオフレーム数は25f/s。これを長時間録画で撮ると1/2の12.5f/sになる。この場合、1fは0.0800sにあたる。シュートが時速90km/hだと仮定すると、ビデオ1fの差は2mの差となって現れる。
これはシュートが決まる、決まらないを決定するのに十分な距離である。
多くの日本選手は接地からシュートまで3f、約0.24sの時間を要している。
これに対して、ブラジルのジュニーニョ・ペルナンプカーノやポルトガルのマニッチェといった選手は約2f、0.16sでシュートを放っている。
この差は主に踏み込み足のステップの大きさに起因している。
日本選手が大きく足を踏み込むのに対し、ミドルシュートの得意な選手は小さな歩幅で踏み込みシュートを放つ。
この差はボールを打つメカニズムにも大きな影響を及ぼしている。日本選手が筋肉を大きく動かして蹴るのに対し、マニッチェなどは体重をボールに伝えることに重点を置いている。
ワールドカップドイツ大会はミドルシュートがよく決まった大会として位置付けられるが、日本は1本も決めることが出来なかった。
シュートの打ち方として小さく鋭く踏み込む、着地からシュートまでを短くする、体重をボールに伝えるように改善する必要がある。
結論
カウンターに関してはスピードを上げた状態での簡単なパスミス(A35m05s,A75m10s)
スピードを上げた状態でのセンタリングミス(A62m24s,A72m40s,B02m30s)
スピードを上げた状態でのトラップミス(73m30s,C44m51s)
など、スピードを上げた状態での一般的な技術が不足している。
この点は重点的に改善されるべきである。
またカウンターのスピードを落とすパスミス(A35m05s,A75m10s,C28m32s,C75m30s)も多く、課題となっている。
サイドでの縦突破、サイドから切れ込んでのシュートのデータを見ると、中盤より前に位置する選手がアタッキングエリア(ペナルティーエリア周辺)で1対1の勝負をしかけていないことがわかる。
日本選手は一般に保持したボールを失うことを恐れる傾向が強く、すぐに後ろ、もしくは横を向いてボールキープに専念することが多い。
これは中田、中村などのトップレベルの技術を持つ選手でも同じ傾向を持っている。
この最も悪い例は、A58m17sとA79m52sの図に見られる。
A58m17sにおいて、柳沢はペナルティーエリアすぐ外でディフェンダーと1対1になっている。この時、その後ろにはカバーがおらず、1人を抜けば決定的なチャンスになる場面だった。
さらにはキーパーは前の段階で飛び出しをミスして、十分にポジションを取れていない状態であり、良い条件が揃っていた。
それにもかかわらず、柳沢は勝負する気配すら見せずに駒野にバックパスを送っている。
これはフォワードとしてあってはならないプレーである。
時間 / 選手 / 場所 / 結果
A79m52sにおいては、高原がペナルティーエリアの中でディフェンダーと1対1になっている。この時、オーストラリアのディフェンスラインは完全に崩れた状態にあり、1人を抜けばキーパーと1対1になる場面だった。
この稀に見る好条件の中で、高原は体を揺らしただけで縦に行く気配は見せず、くるりと後ろを向くと中田にバックパスを送った。
ペナルティーエリアの中で前を向いた状態から後ろを向くことは誰にでもできることであり、この状況で勝負の気配すら見せないことはフォワードとして許されることではない。
時間 / 選手 / 場所 / 結果
これらの行動は、失敗を過度に恐れる日本人に共通した性質の反映だと考えられる。
これを続けていては、永遠に決定力不足に悩まされることになるし技術も向上しない。
体をゴール方向に向け前に進もうとすれば、当然ボールはむきだしの状態になる。
むきだしの状態になれば相手に触られる可能性が増し、それを失う可能性も増す。
しかし前を向けてボールをさらすのが最初の一歩であり、それを取りに来る相手をかわすのが技術である。
ゴールへ向かう、相手が取りに来る、それをかわす技術を身につける。もしくはゴールへ向かう、相手が飛び込んでこない、それを自ら抜く技術を身につける。
技術とは以上のプロセスで身につくものであり、最初の段階が抜けてはいつまでも改善されない。
日本人は勝負をしない、とは以前から言われていることであり、これは民族的な性質に近い。
これを打破するには、意識的もしくは強制的に改善し続ける必要がある。
具体的には体をゴールに向けることであり、そのことで相手と向かい合う状況になれば自然に勝負が始まる。
そこで逃げない選手をフォワードや攻撃的な中盤として育成することにより、現状を打破できると考えられる。
この点に関しては指導者の果たす役割が非常に大きい。
ミドルシュートに関してはシュートモーションをコンパクトにすること、小さく踏み込む、着地からシュートまでを短くする、体重をボールに伝えるようにする必要がある。
シュートモーションが大きいと軸足で踏ん張る時間が長くなり、筋肉を制御する距離も長くなるため、必然的にミスが増える。それを小さくすることはシュートミスの減少にもつながる。
以上の点をまとめると、表10のようになる。
表10:改善点
・ゴールを向く
・シュートの踏み込みを小さく
・軸足の着地からインパクトまでを短く
・スピードを上げた状況でのトラップ、パス、センタリング、シュート
・スピードを殺さないパス
まとめ
ジーコジャパンは戦術的な規制が少ないため、選手個人個人の実力を生の形で見ることができた。
その中で最も基本的な技術で問題となったのは、体をゴールに向けるということだった。
具体的には図の×印がついた状態が問題であり、○印がついた状態になっていなければならない。
ゴールへ向きボールをさらす